2016年新作映画ベスト50プラスワースト1 ③

今更何言ってんの…死ねばいいのに…っていう感じなんですけど、性懲りもなく2016年の新作映画の感想記事、今回が最終回です。前回、前々回と、3回に分けて今年俺が見た映画を紹介させてもらった訳ですけど、最終回はベスト10の最高映画とワースト3の最低映画の紹介とさせて頂きます。

 

askicks1248.hatenablog.com

 

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やっとここでまで来れたって感じなんですけど、ただ辛いことは先に片づけてしまおうって事で、ワースト3は先にやっちゃう感じです。もう本当に見なくても読まなくても全然いいんで。この辺は。

俺はもう「俺だけこんな嫌な想いしたのはおかしいでしょ」以外の気持ちは全くないです。ワースト作品の感想が一番長かったりするんですけど、もうそっちは読んでも読まなくてもマジでどっちでも良いので。ゲロに自分から鼻近付けていって「クッサ!!」って喜んでるみたいなもんですから。こんなのは。

 

49位 エクストラクション

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もうこの辺のはアレなんですよ。「俺が悪かったのか?」って見ててなるんですよ。もう話が進んでるのか戻ってるのかさえ分からなくて。意味が分からないから、終始狐につままれたような気分になって。で、見始めて数十分経つじゃないですか。「イヤこれ狐近くにいるわ!蟲師でこんなん見たわ!」って人ならざるもの達への疑念が確信に変わって、外に出ようとするじゃないですか。お団子かな?お団子渡せばいいのかな?つって。そしたら丁度エンドロールになってるくらいな、そんな感じです。

 

何を考えてるのか全く分からない主人公と、「デッドプールに出てきた中ボスの骨の太い女優が何考えてるか全く分からないヒロインが出てくる普通のD級アクション映画でした。
一応ブルース・ウィリスがキャストの2番目か3番目くらいにクレジットされてて、レンタルショップでも「ダイ・ハードを匂わせるPOPが出てたりして、パッと見の映画のルックは良いんですけど、本当にそれだけです。詐欺と言われても仕方ないくらい。

 

誰に感情移入したらいいのか、全く分からないんですよ。そもそも演出がド下手なんで「俺が何か見落としてるのか…?」となって見返してみたりするんですけど、何故コイツは今ここにいるのか、何故コイツはこんなことをしたのか、もうさっぱり分からなくて。
国の在り方を変えてしまうくらいの重要機密をブルース・ウィリスひとりに運ばせて当然テロリストに捕まるっていう物語の導入とか、どう見ても肩幅がレスラーくらいあるヒロインが敵に捕まっても、どう見ても手下よりヒロインの方が強そうだから安心とか、事務員だった主人公が表に出た途端に何の前触れもなく見ず知らずの人間を顔色一つ変えずに拷問していく感じとか、違和感しか無い脚本でもう足の踏み場が無いんですけど「ああ、俺はF級を見てる」っていう不思議な高揚感がありました。これぞ!みたいな。後味もメチャメチャ悪いし。ブルース・ウィリスは好きな俳優なんで、マジでこういう小銭稼ぎするだけみたいなゴミ映画には出てほしくないっていう気持ちは少しあるんですけどね。
ただ、この映画メチャメチャ良い所が一つだけあって、上映時間が80分しか無いんですよ。1週間後には見た事も忘れる様な中身の無さも相まって、ここだけは本当に良かったです。携帯を弄って5分映像を見ていなくても、物語に置いてけぼりになる事に変わりは無いんで。

 

 

50位 シーズンズ 2万年の地球旅行

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確か映画館で上映されたのが2月とかだったと思うんですけど、もう「今年のワースト映画決まった…」と鑑賞直後は確信していました。


この映画って作り手側の演出が凄く感じられるドキュメンタリーなんですよ。それがもうとにかく不自然で、しかも説教臭くてとにかく嫌でした。
嫌だったのが、終盤に人間の少女が出て来て「人間の手によってドンドン自然は消えていく、なんと愚かなことよ…」みたいな感じで森の木々を悲しげに見やるっていうシーンがあるんですけど、映画中盤くらいに人間たちが登場してきた時代の再現があるんです。で、その少女がそこに出てくる原始時代の人間の少女にメチャメチャ似てるんですよね。

もう一つ挙げると、人間たちが段々と「道具を使う」っていう事を覚えだして、家屋を作る為に森の木々を倒し始めた時期があるんですね。そこで熊が映って「人間たちが木々を倒して餌が取れなくなった為に、熊は不慣れな山での生活を余儀なくされました」って、アルプスみたいな山地で熊がウロウロしてる映像が長回しされるんですよ。


これらって完全に人間の手が加わった演出じゃないですか。っていうか、動物たちは必死に暮らしてるのかもしれないですけど、人間だって同じ様に、自分たちがよりよい生活が出来るようにって、それこそとんでもない時間をかけてとんでもない数の人間の労力が払われてきた訳じゃないですか。

それに全く目に向けずに、自分たちの思想に現実味を持たせる為だけにこういう他人をバカにしたとしか思えない演出を何故選択出来てしまうのか、マジで理解できないんですよ。とんでもない山地でウロウロしてる熊とか、何なんですか?数千年前からずっとこの地域の熊は「餌がない餌がない」って、代々に渡って山でうろついてるって事ですか?っていうか、完全に人間の脚本があるのに「野生の動物たちを追ったドキュメンタリー」って銘打ってるんですよ。もう前提からしてメチャメチャなんですよね。


こういう動物たちの生態を追っていくドキュメンタリーで「動物は必死に生きてるのに現代人が彼らの生活を脅かしている!」みたいな落とし所にするのって、それこそ人間のエゴの塊をぶつけられた気がして、凄く嫌な気持ちになりました。イヤ、お前らがそういう風に考えるのは別にいいけど、それを動物たちの生態を自分たちの思想の為のプロモーション映像に使ったり、脚本が当たり前の様に存在する演出で『ドキュメンタリー映画』を謳うんじゃねえよっていう、そういう感じです。個人的にはメチャメチャ嫌いな映画です。

 

一応こっちでも感想を書いています。

 

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51位 エクスポーズ 暗闇の迷宮

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確実に誰も見てない映画なんですよ。みんな大好きキアヌ・リーブスが一応出てはいるんで、レンタルショップで手に取ってはみたんですけど。人生で見てきた映画の中でも1、2を争うくらいの駄作でした。


コレはあんまり映画本編とは関係ない話なんですけど、ちゃんと定期的に映画館に通う様になったのがここ数年で、最近は面白くない映画なんてこの世には存在しないんじゃないか?って本当に思うんですよ。「インデペンデンス・デイ リサージェンス」とか、俺の去年のワーストにした「96時間 レクイエム」とか、好きとは死んでも言えない映画って沢山あるんですけど、例えば誰かと見に行ったりTwitterで感想書いたりして「ココがダメ、あそこがダメ」って言い合ったり思ったりするのって、それ自体が結構楽しかったりするじゃないですか。
1つの話題で他人の意思と触れたり、自分の考えを整理したりすると、自分がどういうジャンルが好きで、どういう描写が苦手なのかってのが理解できたりして、それって凄く貴重な事だなって今更ながらに思うんですよ。高校生みたいな事言ってますけど、最近本当に面白い映画だけ選んで、面白い映画だけ見て、趣味の範囲ですら自分のテリトリーから出ようとしないのって、貧しい考えなのかもなってマジで思うんですよね。だからどんな映画だって価値はあるし、時間の無駄、金の無駄なんて事は無いんじゃないかって考えるようにしてるんです。どんな事があっても。


で、この「エクスポーズ 暗闇の迷宮」なんですけど。
マジで時間の無駄以外の何者でもねえよ!オイ!!最悪の映画だったよ!!見てなんの得もねえよ!!!どうなってんだコレ!!!!!殺すぞ!???


前振りはこんなんなんですけど、本当に、本当に、イヤ本当に駄作でした。「駄作」っていうのが他のちゃんとした駄作(ちゃんとした駄作?)に申し訳ないくらいの完成度の低さ。今年見た旧作も含めてもう文句なしで2016年の個人的ワースト映画です。
イヤ、もうね、一応刑事物っていうかミステリーなんですけど、そもそもミステリーとしても成り立ってないんですよ。もうどうせ誰も見ないと思うんで、これから思いっきり、いつも以上にネタバレします。っていうか全部書きます。どうせ誰も見ないと思うんで。


主人公は20代くらいのメキシコ系なのかな?のアメリカ人で、パーティ終わった~つって地下鉄で帰ろうとして駅に向かうんですね。で、そこで彼女が目にしたのは、駅のホームで宙に浮かぶ男だったんです。
家に帰ってから「昨日駅のホームで浮いてる男がいたのよ!」「アレは天使かも!」って女は騒ぎ出すんで、「何を言ってんだコイツはもう…」みたいなテンションで嫁に入った家族に呆れられるわ笑われるわって感じなんですけど。なんかこの女の様子が変だぞ?っていう描写だけは途中途中で入って。なんかよく分からないドレス着た白塗りの怪物?を街中で見たりとか。そしてどうやらその怪物は主人公の女にしか見えてないぽかったりとか。


「駅のホームで宙に浮いていたの男は一体何者なのか?」っていうのは映画の最終盤で明らかになります。もうコレこの映画の核心部分なんですけど、主人公の女は、実は地下鉄のホームで男にトイレに連れ込まれてレイプされてたんですよ。で、主人公は男が隙を見せた一瞬を狙ってナイフで背中を刺して、駅のホームに突き落とすんです。それからちょうどやってきた列車にその男は轢き殺されるんですね。レイプされたショックでもう始めっから主人公は精神に異常を来していた!っていうのが物語のオチなんですよ。だから「宙に浮いた男」なんてのを見ていたんですね…。イヤ、「はあ?」って感じでしょ?俺の説明読んでて。でも大丈夫。書いてる俺も文字に起こしてまた「はあ?」ってなってます。


物語の流れとしては、列車に轢き殺された男っていうのは実は停職中の刑事で、その元相棒だったキアヌ・リーブス役の刑事が事件を追って行くのと、もう頭おかしくなってる女に起きる不可解な出来事を交互に見せてくっていう感じなんです。で、この映画110分くらいあるんですけど、110分の内に犯人を追う側であるはずのキアヌが持ちうる手がかりが「男が死ぬ直前に何故か隠し撮りしてた2枚の写真」しか無いんですよ。


こういうのって数珠繋ぎで、最初の手がかりを探していったら次の手がかりが見つかって、その次の手がかりを見つけたらその次の…って感じで物語が進むじゃないですか。
この映画にはそういうの一切ないです。列車の運転手に話を聞くとか、駅にいた目撃者を探すとか、駅に監視カメラは無かったのかとか、2枚の写真以外に手掛かりを探したり、男の死因をしっかり調べる事もないし、交友関係をもう少し洗ってみたりとかもないです。手掛かりがメチャメチャ少ないんで、当然捜査も行き詰まります。「この写真に映ったヤツに見覚えはあるか?」って聞くだけなんですよ、コイツの捜査。で、「………無いですね~」「うーん、行き詰まった…」つってるんですよ。お前マジか!??って俺が何回言ったと思います?もうなんなんだよコイツ。辞めちまえ。退職金放棄しろ。寄付して過ごせ。

 


一応、頭のヤバくなった女に「コイツなんか掴んでそうだから聴取してえ~」みたいなシーンはあるんですけど、何故接触しないかというと「前に同じように話を聞いたヤツがその直後に地元のギャングに殺されたから危ない」っていうクソ理由で。
で、最終的にキアヌはどうするかというと、コイツ諦めるんですよ。上司に「あの死んだお前の元相棒だけど、なんかアイツ実はレイプもしててヤバイ奴だったっぽいからこのまま無かった事にしてくれや」って言われて「わかりました…」つってもう捜査側の人間の話はマジで終わるんですよ。死ね。マジで全員死んでくれ。もう終わりにしてくれ。終わりだよ終わり。意味がねえよこんなの。


追われる側の立場であるはずの主人公のパートも、追う側がマジで機能してないんで、っていうか追ってないんで一切緊迫感が無いんです。ただただ精神に異常を来してる女の身に起こる不可解な出来事を並列に見せてくだけなんで、何を見せたいのか一切分からない。
どうせマジで誰も見ないし見る事もないだろうから、全部書きます。もうね、終わり方とか最悪の最悪ですよ。主人公の女が働いてる保育園?なのかな?で、ネグレクトされてるっぽい女の子がいたんですね。で、なんか家から逃げてきたって言うんで、実家で保護したんです。そしたらね、同居してる主人公の父親にその女の子がレイプされそうになったから、女の子守る為に父親殺したら女の子は主人公にしか見えない架空の存在だった!!っていうのが最後のオチなんです。
あのさ、もうコレさ、序盤から続いてきた事件と一切関係ない話ですよね??俺がこれまで頑張って見てきた110分は何だったんだよ。っていうかなんで主人公の女パートとキアヌのパートを交互に見せる作劇なのに物語の最後の最後までこいつら一切交わらないんだよ。このお腹の子どもだけでも祝福してあげて!!じゃねえんだよボケ。もうさ、もう、楽しい事だけ考えて生きていこうよ。みんなでさ。苦しいのとか辛いのとか、もういいじゃんか。俺たち頑張ったよ。な?もういいじゃんか?な。


テーマが不快!とかカメラワークが不親切!とか位置関係がわかりにくい!とか、そういう以前の問題の映画ってあるんだなと、本当にタメになる1本でした。
良かったのが、事件が起きた地下鉄のホームまで続くトンネルですね。地獄への入り口って感じで、良いロケハンが出来ていたんじゃないですかね。
主人公パートの日常が崩れてく展開もまあそんなに悪くは無かったんで、もっと早めに「キアヌが主人公の女に目を付けて事情聴取しに行く」とか「地下鉄の駅のトイレに被害者の体液が発見された」「男の死体の肉片から指紋付きのナイフが見つかった!」とか、俺みたいな素人でも辻褄が合う様な展開が思い付くんだから、もっと何とか出来たと思うんです。普通に役者陣は良いんだから、サスペンスとスリラーをやっておけばいいのに何か深淵なテーマを含ませようとして失敗してしまった感じなんですよね。開脚前転しか出来ないのに何故か前方倒立回転飛びやろうとして普通に首の骨折ってるんですよコイツ。一生見学してろバカ。

 

 

 

あっ、スイマセン。じゃあやっとここからが本番みたいな物なので。お辛い気持ちにさせてしまって申し訳ありませんでした。

 

では、今年のベスト10の発表です。

 

 

10位 ヘイトフル・エイト

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タランティーノの新作って聞いて映画館に行かない映画ファンはいないと思うんですけど、タランティーノの新作です。
この人の映画って、とにかく喋るヤツが劇中で最強っていうよく分からないルールがあって、今作も例に漏れず喋れば喋るほど生存率が高まってくサミュエル・L・ジャクソンが主演なんですけど。とにかく今更ながらこの人の芸達者ぶりに驚くし、それを堪能する3時間でもあったと思います。俺はサミュエルを全部の映画でファックファック連発して喋りまくる屈強な偏屈黒人の役やっててほしいってマジで思ってるんで、100パーセントの濃度の「俺が見たかったサミュエル」がしっかりファックファック連発してくれます。人もバンバン殺すし。


この映画、好きな所沢山あるんですけど、やっぱり序盤数分が好きで。「ズートピアの序盤もメチャメチャ好きなんですけど、この映画の序盤の凄い所は「何も起きてない」所なんですよ。もうRPGだったら中盤で絶対死ぬ、元々は歴戦の戦士だったけど年取って指揮官側に回ったプレイヤー父親の親友のおじさん的な「生ける伝説」みたいな称号が与えられてても全然おかしくない巨匠エンニオ・モリコーネの、重低音効かせた、体の芯から震えさせる劇盤がかかる中で少しずつ遠くから馬車がゆったりゆったり画面のこちら側に向かってくる、っていうだけの序盤なんですけど、もうコレがたまらなく好きで。
「これから俺は一体どんなとんでもない物を見るんだろう…」というか、怖いだけどその分楽しみ!っていう映画を初めて見た時の子どもみたいな気持ちに戻る序盤数分だったんですよ。物語の進行上においては、「馬車で移動してる」ていうだけなんですけど、この序盤があるから、これから向かう事になる山小屋がパッとスクリーンに映るだけでとんでもなくゾクゾクするし、「何も起きてない」っていうのを強烈な演出にまで昇華させてしまってるこの序盤数分が、この映画のテンションを最後まで高く引っ張っていってくれてると思います。


あまりネタバレしない様に書きたいんですけど、宣伝で「タランティーノ初のミステリー!」みたいな文句がありますけど、コレ全然ミステリーじゃないんですよ。フィルモグラフィー的にいえば初監督作品の「レザボア・ドッグス」が近いと思うんですけど、レザボアがミステリかって聞かれたら全然そんな要素無い訳じゃないですか。単純に「バイオレンス」と「みんな早口で字幕に追いつけない」と「タランティーノっていうジャンルで見た方が腑に落ちるかとは思います。自分の正義に最後の最後まで忠実だった人間が、死ぬ間際にちょっとしたご褒美を貰えたっていう、メチャメチャ後味の悪くてバカな映画っていえば映画なんですけど
何か深淵なテーマがありそうでそんなに無いっていうのもいつも通りのタランティーノではあるんですけど(そんなの狙ってもないんでしょうけど)一見バカがバカ乗されて計算結果とんでもない数のバカになった!っていう話のツイストに次ぐツイストの果てに、ああいう本当にささやかなご褒美で満面の笑みを浮かべるサミュエルを見ると、何故か「俺はいい映画を見ている」って心から信じられるんですよね。

 

 

 

9位 ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー

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面白かったっすね~~。この前WOWOWで「モンスターズ」見たばっかりだったんですけど、この後にゴジラ撮ってスターウォーズ撮ってますからね。ギャレス・エドワーズ高橋由伸みたいな出世街道ですよね。
欠点の全くない完璧な映画っていう訳ではないんですよ。登場人物一人一人の掘り下げも薄かったりするし、彼らがチームとなっていく共通の体験とかも特にないまま、最終決戦まで行ったりするんで。事態が特に動かないまま同じ所を行ったりきたりしていて、なんか重たいテンポで序盤は進むんですけど。


ただやっぱりこの映画の醍醐味っていったら、終盤の最終決戦シーンからラストシーンまでの熱さですよ。最終決戦っていうか本筋はまだ始まってもないんですけど。
とにかくもう泥臭いんですよね。一人一人が死力を振り絞って、それぞれは小さな力だけどその小さな力が受け継がれて受け継がれていった先に大きな勝利があるはずだ!っていうのを、台詞だけでなくて、彼らの命の灯火その物が「受け継がれていく」っていうのを体現していくんです。スター・ウォーズって、アナキンの話であり、ルークの話な訳じゃないですか。そういうヒーローたちの物語においては語られる事の無い、「持たざる者」たちの戦いって、つまり俺の事ですからね。ドニー・イェンも俺だったんですね。実はね。
序盤はあんまり…って書いたんですけど、好きなシーンはいっぱいあるんですよ。主人公が幼少期の頃に、家にやってきたクレニックとストームトルーパーが横一列になって家囲むシーンとか、「ああ…」って感じですよね。とんでもない2時間が始まるぞ…みたいな。あと俺ことドニー・イェンね。最高。シネマハスラー宇多丸が「あんな強いジェダイはいねえ」って言ってたのには笑っちゃいましたけど。

 

 

 

8位 シン・ゴジラ

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まさかこんな面白い映画になるなんてって感じですよね。多分特報が出た時点でこの映画を信じてた人間って日本で15人くらいしかいなかったんじゃないかと思うんですけど。
東京の破壊シーンとか、会議シーンの気持ちいいテンポの良さとか、見所が沢山ある映画でした。個人的に好きなのがゴジラの東京破壊シーン後の「日本の意地見せたるわ!!」の流れなんですけど、あそこから一気に「こうでありたい俺たち」みたいな感じになっていくじゃないか。2部構成の後半って言ってもいいと思うし、コピーの「現実対虚構」っていうのもここの構成の事を指しているんでしょうけど。

 


前半部分は3・11のオマージュが凄く多くて、ゴジラっていう存在自体が理不尽な災害そのものであって。俺たちが暮らす現実っていうのは、ゴジラが破壊の限りを尽くして後に眠り着いたあの瞬間で立ち止まっている訳じゃないですか。そこから、せめてフィクションの中だけでもその理不尽さに打ち勝とうとするし、そしてその理不尽さに実際に勝利してみせるっていう流れになっていくんですよね。トラウマに虚構の中だけでも完勝するっていう。3・11を体験した日本人でしか作り得ない作品になっていて、「怪獣映画」の枠の向こう側を見た様なそんな作品だったと思います。怖いし、でもしっかり娯楽作品としてエンタメしてるし。

 

 

 

7位 ヒメアノ~ル

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非常にキツい(良い意味でですけど)映画でした。
何と言っても森田役の森田剛が凄まじかった。段々と日常がこの森田に侵食されていく様子が本当にイヤでショッキングで、ちょっと長い間引きずってしまいました。結構バイオレンス色強めなサスペンス映画に分類されると思うんですけど、学生時代に裏切ってしまったり、疎遠になってしまった友達を連想させる映画なんですよ、コレ。


例えば、一体俺は学生時代に何人のクラスメイトとすれ違って傷付けてここまで大人になってしまったのだろうか、なんて事を考えれば、多分途方もない数の人間たちが浮かんでは消えていくんですけど。
でもそれは俺がマジでクズな人間なんじゃないかっていうのっは置いておいて、「学生時代の忘れたい思い出と罪悪感」なんて誰しもが持ってる訳じゃないですか。でも、数十人数百人の不特定多数の人間と、何千時間も「学校」っていう同じ空間で過ごしてきた事を考えれば、それって凄く普遍的な罪の意識だとも思うんですよ。「あの時こうしていれば、ああしていれば」なんて子供だった頃から皆が感じていたと思うし、ずっとずっと後悔してたんだと思うんですよ、今も昔も。


俺が過ごしたあの3年A組の教室の中にも、森田が生まれていたかもしれない。場当たり的に何の感情も無く淡々と殺人が犯せる森田の様な人間が生まれる土壌で、俺は育って、それで大人になっていったのかもしれないと考えると、本当にゾッとするんです。サスペンス映画なんですけど、後味が本当に悲しくて、10代の自分について、学校っていう空間について考えさせられて。こういう視点があったか!っていう、一括りに残酷映画とは言えない凄みのある1本でした。
映画本編については、序盤とそれ以降のメリハリの効きがマジで凄まじいですね。濱田岳ムロツヨシを中心としたコメディタッチで中盤辺りまでは進むんですけど、このコメディタッチの柔らかい展開の中でも、やっぱり明らかに異質な存在として出てくる森田剛の「コイツ、マジで関わらない方がいい」っていうイヤな感じが緊張感を保たせてて見応えがありました。
こういうヤツ、高校にいましたもん。話が通じないっていうか、もう人の話を言語として認識してないし、する気もない感じ。それ以降のバイオレンス描写も、なんというか、俺の部屋の隣で起きてそうな感じっていうか、俺の日常の延長線上に殺人がありそうな感じっていうか。撮り方がマジで嫌な感じなんですよね…。イヤ、最高なんですけど。

 

 

6位 COP CAR コップ・カー

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ケビン・ベーコン最高ですよねマジで。死体を引きづるベーコン、呆然と佇むベーコン、物に当たるベーコン、色んな角度から色んなベーコンが楽しめるってだけで大変価値のある映画です。


見る前のイメージとは全然違った映画でもありました。ジュブナイルなんですよ。この映画。「スタンド・バイ・ミーって映画ありましたけど、アレって子供たちが「死」その物を至近距離で見てしまったが故に、生にはいつか終わりが必ずやってくるっていう事を頭ではなく心で理解してしまった事で大人に成らざるを得なくなった、っていうジュブナイルであり結構悲しくて辛い話って思ったんですけど、それに近い物をこの作品では感じました。


「コップ・カー」、つまりパトカーですよね。その正しさの象徴を劇中で追うのは、自身の「正しくなさ」なんて全く信じてもいない人間で、相対するのは自身の「正しさ」が何なのかもまだ理解していない人間で。
またこの正しくない人間が世間的には上手い事やってて、良き人間として過ごしてるっていう描写が嫌な所なんですけど。
俺たちが信じてきた「正しさ」を簡単に揺るがせてしまう日々が、また俺たちの生活のすぐ近くにあるのかも…っていう怖さを、凄く端的に描写しながらも、それをジュブナイルと絡ませていて、今まで見た事がない映画を作ってしまってるんですよ。
そして死や痛みを覚えて子どもたちは行って帰ってきた」っていう爽やかウィゴ映画ではあるんだけど、多分こいつら生涯に渡ってケビン・ベーコンのどうかしてる表情がメチャメチャちらつく」っていう。リドリー・スコットの「悪の法則」っていう映画がありましたけど、少しそこにスタンド・バイミーのエッセンスを注入した感じというか。


自分がどういう風にスクリーンに映っているのか、それを完全に理解しながら、作り手としてこういう今までにあまり無かった物を作っていくっていう映画人として凄く優れてる人間なんだなあ…と改めて思いました。ケビン・ベーコン
この世の理不尽さをその出で立ちだけで描写してしまってるんで、このベーコンが。この男が。この映画のラストシーンも凄く好きなんですよ。真っ暗闇の中を朧げだけども何とかライトを照らしながら…。マジで好き。ベーコンに理不尽な事されてベーコンが理不尽な目に合う新作が毎年見たい。

 

 

 

5位 太陽

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入江悠監督の最新作ですね。
邦画で近未来SFって、まあ安藤ロイドくらいしか思い浮かばないし上手く行くようなイメージが全く無かったんですけど、こういう撮り方があるのか…と、すごく感心しました。
「かつては存在していたが今や廃れてしまった風習」を描く事で、逆に未来感の演出として機能させているんですよね。街ではなく「集落」と化してしまった人間の暮らす地域に、ほんのちょっとした近未来的なガジェットであったり、文化的な違和感を抱かせるキャラクターを配置するというだけで、とにかく今では無い「いつか」の演出になっていたりして。スパイク・ジョーンズの「her 世界でひとつの彼女」っていう大好きな映画があるんですけど、ちょっとそれを連想しました。ちょっとしたアイテムで「今でなさ」の演出をバッチリ決めちゃってる感じというか。


個人的にはこの映画は「肉体と精神、どちらが人間が人間である為に必要な器官であるのか」っていう所の話だと思っていて。人間が人間である以上、この肉体と精神っていう檻の中から人間はいつまで経っても出る事が出来ない訳じゃないですか、当たり前の事言ってますけど。
肉体と精神の檻の中にいる以上、人間である事は証明できるが、人間でいる事のまず大前提として、最後には「死」は待っているし、そこまでにはいくつもの「理不尽な不幸」は必ず存在していて。ただ、それでも何とかして生きていかなければならない、この肉体と精神の檻の中にいる限りは永遠に耐えていかなければならない、っていう大変辛い物語でもあるんですけれど。この「太陽」っていう作品は。


ただ、そんな中で「誰かを守りたい気持ち」であるとか「誰かを心の底から愛する気持ち」とか、そういう凄く単純で真っ当な誰かへの愛情みたいな物が、貴重で、尊くて、本当に儚くて小さい小さい今にも消えてしまいそうな灯りだけれども、それでもこの灯りを頼りに生きて行くしかないじゃんか…っていう凄く弱くて強い希望の話にもなっていると思うんですよね
この映画のラストシーンが本当に好きなんです。「太陽」っていう物に永遠に縛られながら、今にも終わりを迎えそうな旅路の中でも、ここではない何処かへ行きたい、いや、行かなければならないんだ今すぐにっていう、凄く爽やかなラストショットがずっと心の中に残っています。「SRサイタマノラッパー」も好きですけど、こっちもメチャメチャ好きです。

 

 

 

 

4位 永い言い訳

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辛みと笑みの豪華2本立てみたいな感じでした。
本編はかなり重いテーマから始まるんですけど、主人公がとにかくクズなんですよね。主人公は小説家で、本業は落ち目な感じなんですけど、テレビにはそこそこ出てるみたいで。物語は奥さんが不慮の事故で亡くなる所から始まるんですが、コイツ奥さんが亡くなった時は別の女と自宅で寝てたっていうだけでもアレなんですけど、奥さんの葬式でテレビカメラの前で嘘泣きしつつ、車の中では即鏡で自分の髪型気にして、それから「自分の名前 可哀想」とかでグーグル検索してる描写が入ったりして。思い付く限りの「人間が取れるクズ行動」が山盛りなんですよ、マジで。


セリフも心にグサッと来るのが多くて。
主人公は奥さんを亡くした時に初めて「俺ってもしかして誰も愛せない人間なんじゃねえの?」って自覚するんです。で、奥さんはどうやら地元の友達と旅行の道中にバスの事故で亡くなった、と。まあなんやかんやあって、そのお友達には遺された旦那さんと子供がいて、旦那さんはトラックの運転手やってるから子供の面倒がなかなか見れない。そこで主人公は変わりに子供の面倒を見てあげるって事になるんです。
台詞には無いんですけど、明らかに主人公は子供の面倒を見るっていう事で、自分の中に今まで無かった「愛情」を見出そうとするんですね。しかもそれは他人の子供を使って。「ありがとう!」「マジで良いヤツだよ!」なんて旦那さんにベタ褒めされて「そう?」「困った時はお互い様だよ?」なんてツーブロックの本木雅弘が得意気になって言うんですよ。なんかお前よく分かんねえけどどうしようもねえクズだな!ってなるんですけど、後にこの人がマネージャーに浴びせられる言葉が本当に辛辣で。

 


「どんなに人間のクズみたいなヤツでも子どもを作ると、それを忘れさせてくれるし、それを分からなくさせてくれるし、最高の逃避ですよね。逃げる事は悪い事じゃないですよ」みたいな事を言うんですよ。お前、そんな事を例え思っても言うなよ!っていうか言語化すんじゃねえよ!ってもう映画館で笑いそうになっちゃったんですよね。
なんで俺からすごく遠い位置にあるこの映画がこんなにも面白く感じたのか、また俺の話になるんですけど、俺に子どもなんていないし、結婚なんか多分しないで死ぬんだろうなっていう予感だけはメチャメチャあるんです。20代後半にもなって人を心から愛した事が無いんです、多分。アトリエかぐやと裸足少女があればもういいや、っていう感じで。

そういう、自分の中にある「愛情」の存在すら自分で疑ってかかってるような人間にとって、自分の分身である「子ども」っていう存在ならば、どこからともなく「愛情」っていうヤツが、空から美少女が降ってきた!的なイメージでやってくるかもしれないじゃないですか。そこをさ、俺の唯一の拠り所を「無条件の愛情があるから自分のどうしようもなさを見ないで済む」なんて説明されたら、俺もう膝とか曲げられそうにないんですけど。もう生きていけないでしょ。無理だよ無理。本木雅弘偉いよ。あんな事、年下の男に言われても膝曲げて自転車漕いでんだから。歩行補助車でも俺無理だよ。


「愛情って何処からやってきて、どうやって見つければいいんだ?」っていう映画だと思うんです。ある日突然自分の中に芽生える物なのか、自分の心の中で少しずつ育てていく物なのか。
主人公は妻っていう存在を喪失して初めて、自分の心には欠落があるっていう事を知るんです。その欠落はどうすれば塞がるのか全く検討も付かないまま、なんとか他人の子どもで埋め合わせしようとする姿が可哀想ではあるんだけど、可愛らしいみたいな部分もあって。主人公は結婚もしてて不倫もしてて、っていう俺自身とは凄く遠い位置にいる人間のはずなのに、凄く身近に感じてしまう部分が多々あって。「失う」っていう事を通してでないと愛情って分からなかったり、忘れてしまったりっていう事だと思うんですよ。
あらすじだけ読むと、正直物語にどれだけ乗っていけるか不安だったんです。前評判も良かっただけに。だけど、この映画は愛情だとか自身の才能だとか、そういう「今までの人生で積み上げてきた物を取り戻す話」では無かったように思えるんです。逆に自分の中の喪失とか欠落に自覚を持って、そしてもう取り戻せない物がある事を知って、人生の中で愛情を実感できる回数には必ず限りがある事を知る映画だったっていうか。自分の中の欠落した部分をちゃんと見ようとするっていう、凄く普遍的で、特に俺みたいな貯金8万の人間にはメチャメチャ刺さる話だったんですよね。

 

 

 

3位 この世界の片隅に

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最高アンド最高。もう最高以外の最高が無い。
スクリーンの向こう側にね、生活があるんですよ。生きている人たちがいて、暮らしがあって、感情があって。っていうか俺が見てたのはスクリーンでは無かった気がします。なんか特殊な、4次元的なアレです。
良い映画って、映画館に入った時と出てきた時で今まで見ていた景色を全く別物にさせてくれるじゃないですか。俺の好きな映画って今パッと思い浮かぶのは「グラン・トリノと「ダークナイト」なんですけど、この2本を見終わった時も映画終わって街に出ると、世界が全然変わってしまった気がして。この世界には星の数ほどに「理不尽な悪」っていうのは人間が生きる限り絶対に存在するって映画じゃないですか。2本とも。
今この瞬間にもこの世界のどこかには、その悪に屈しようとしてる人間もいるけれども、自分が出来る事なんてごくごく限られてはいるけれども、それでも自分が信じる正義を糧にしてこの世界を生きていくしかないし、そうやって必死に抗ってるアンタの姿はこの世で一番美しくて尊いんだよ!っていうのをガツンと見せられて。もう俺は見終わった時にグラッグラ来てたんですけど。今作「この世界の片隅に」を見た時も、それと同じくらいの衝撃があって。


好きなシーンは山程あるんですけど。この映画も。
序盤から中盤にかけて日常描写の積み重ねを沢山見せているから、いよいよ戦火が広島にも、っていう下りがよりショッキングに感じてしまったりとか。
ほのぼのとした日々の中でも、俺たち現代人にしてみればいつ何が起きるかを知っているから、「◯◯年、◯月」っていう字幕表記1個で緊張感が序盤からずっとキープされてたりとか。
一見4コマ漫画の登場人物みたいな、デフォルメされたデザインに見えるんですけど、肌や髪の質感が凄くリアルだからメチャメチャ色気がある様に見えたりとか。
能年玲奈マジで最高だとか。「ここ教科書で見たぞ!っていうか教科書で見た景色がアニメーションになってるぞ!!」とか。
空襲警報が日常的に鳴る様になってから、すずの指差し点検が見るからに早くなっていく描写とか。
あるシーンで、すずが空に絵の具を頭の中で散らして「ああ…今、この景色を書けたならな…」って呆然と空中を見やる所とか。
アニメでしか出来ない描写が山ほどあったんですよね。


終盤の終盤に戦争が終わって、呉の街に少しずつ少しずつ明かりが再び灯されていくっていう描写があるんですけど、そこが俺一番好きで。主人公のすずは、もうそれは壮絶な体験をしてきた訳じゃないですか。家族も亡くなった、自身の生きがいも無くした。好きだった幼馴染に会う事ももうきっと無い。
でも、その民家に灯されていく明かりを見た時にハッと気付いたのが、「この灯一つ一つの下全部に、人は確かに生きていたんだよな」っていう事で。勿論コレは映画だから、浦野すずっていう主人公がいて、彼女とその家族が生きてきた日々を観客は追体験する訳なんですけど、彼女たち家族だけが特別に壮絶だったっていう事ではなかったはずなんですよ。
この灯りの下にも別の家族があって、戦争を体験していて、生活はメチャメチャに振り回されてっていうのが、無数に存在していた訳じゃないですか。だからその瞬間に、この映画は浦野すずっていう主人公がいる映画ではあるけれど、本質的には全ての灯りの下にいた家族の話だったと思うんですよね
こういうドラマが全ての家族の下に、無数に存在していたんだろうと考えると、もうね、俺は死んじゃうんだよな。果てしなさもあるし、人間の強さも感じるし、あの時統計取ってたらいくつの理不尽な悲劇があったんだって考えたりすると、もう俺は遠くに行ってしまう。果てしない。この映画は果てしない。

 

 

 

2位 オデッセイ

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イヤもう最高ですよ。コレ。もう最高以外の言葉が無い。最高ばっかり言ってますけど、この辺。でももうマジで最高。


もうね、底抜けに人間賛歌なんですよ、この映画。火星に一人取り残された主人公がそれでも何とか生き抜く為に知恵を振り絞る!っていうのが本筋なんですけど、俺が胸を打たれたのが「一人一人が出来る事をしっかりやる」っていう、凄く当たり前の事なんです。
主人公の身に降りかかるのは、本当にキツくていつ心が折れてもおかしくないって感じなんですけど、そういう時に彼が心の拠り所にするのは、あくまでそれまで自分自身が暮らしの中で積み上げて来た知識であったり、ユーモアであったりっていう、俺たちの生活の中にでもそこら辺に落ちてる様な物なんですよ。神や奇跡っていうあやふやな存在ではなく、人間自身が持ちうる力だけで苦難を乗り切っていくっていうその過程がたまらなく好きだったりするんですけど、それより何よりこの映画では、主人公が火星で生活する描写と並行して、地球で主人公を救う為に日夜開発を続けている職員の姿を見せていくんですね。


俺は個人的にはこういう描写を地球と火星とで並行に見せていく過程こそがこの映画の肝だと思っていて、つまり「今日出来る事をそれぞれが一生懸命やる」っていう当たり前の事を当たり前にやって事の偉大さがここにあるんだと思うんですよ。
残業で日中働き詰めだったり、一見何に繋がっているのか分からない作業でもあっても、それが積み重なって積み重なって、いつかは宇宙をも超えて火星にいる人間と確実に繋がっていくんだっていう所が、人間ひとりの小ささ非力さを、貶める事は決してしないし、人間ひとりの小ささ非力さを、神の存在をも超えた物として力強く描いてるのが本当にたまらなく好きなんです。ラストのあの生徒が一斉に手を挙げるあのシーンとかメチャメチャ感動して。一人ひとりの力はこうやって受け継がれ、人間にしか持ち得ない力として、また継承されていくんだなあ…っていう、最高のシーンだったと思います。正直、この作品を映画館で見た直後は「今年の1位出たな…」っていう感じでした。

 

 以前のレビューです。一応参考までに。

askicks1248.hatenablog.com

 

 

 

 

1位 何者

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もう文句なしの1位だと思います。
ちょっと前に詳しい感想は別に記事にして書かせてもらったんですけど、やっぱり未だに印象的なシーンはふとした時に思い返してしまいますね。
SNSが凄く重要なファクターになっている作品です。
また自分の話になってしまうんですけど、俺にとってSNSっていうのは心の拠り所でもあるし、人生の汚点でもあるし、でももう無くてはならない物になってしまっていて。それは良い意味でも悪い意味でもあるんですけど。
己の中にある嫌な部分を隠すんじゃなくて、吐き出せる場所があったって気付いてしまったら、もうそこから抜け出す事は簡単な事ではなくて。だから主人公のあの行動は自分の事の様にわかるし、同時にそういう嫌な自分の視線みたいな物って自分にも向けられる物だから、もうぜ全然身動き取れなくなってしまうのもメチャメチャ分かるんですよ。多分主人公が演劇から離れてしまったのも、自分が自分に向ける目線に耐えられなくなったからだと思ってるんですけど。


だから、自分で自分をずっと縛りつけている主人公に、終盤の有村架純が「演劇、面白かったよ」ってやっと言ってくれるじゃないですか。あの瞬間に彼を縛ってた視線は若干和らいだんじゃないかと思っていて。何千何万っていう言葉を使って自分を縛り付けて、それで自分を守ってきた言葉より、たった数文字の台詞だけで彼の心は少し解放されたんだなと考えると、自分の事の様に涙がボロッボロ流れてしまったんですよね。
やっぱり俺がこの映画好きなのは、凄く厳しくて辛い自意識についての話なのに、その目線がメチャメチャ優しい所なんですよ。主人公はSNSに書いてきた文字ではなく、凄く凄く遠回りしたけれど、やっと自分の言葉で自分の人生を語り初めて、自分の言葉で生き始めるんだろうなっていう。それも「語る」じゃなくて「語り始める」っていう所が本当に涙が出るくらい優しくて。スタートラインに立つ覚悟を決める人間の話にしているのが、本当に大好きです。もう生涯オールベストとか選ぶんなら絶対入れる作品になったと思います。もう俺の一部です。この映画は。

 

 

こっちでも感想書いてます。

askicks1248.hatenablog.com

 

 

 

 

という事で2016年の年間俺大好き映画第1位は「何者」でした。山田孝之になりたい。

今年は邦画に面白い物が多くて、豊作だったと思います。特にやっぱりサスペンス、暴力映画がメチャメチャ良かったですね。「ヒメアノ~ル」も「ケンとカズ」も。「クリーピー 偽りの隣人」や「ディストラクション・ベイビーズ」とかも凄く良かったんですけど、見たのが今年入ってからだったので。っていうかベスト10とか20とか言ってますけど、全部1位なんですよ。本当は。全部最高。

では、上位20本の順位だけ改めて書かさせてもらって、2016年の映画感想記事は終わりとさせていただきます。終わりとさせていただきますって、2016年はとっくの昔に終わってるんですけどね。タハハ。はい。もう二度とやらねえ。

 

優勝   何者
2位   オデッセイ
3位   この世界の片隅に
4位   永い言い訳
5位   太陽
6位 COP CAR コップ・カー
7位 ヒメアノ~ル
8位 シン・ゴジラ
9位 ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー
10位 ヘイトフル・エイト
11位 シング・ストリート 未来へのうた
12位 ケンとカズ
13位 ハドソン川の奇跡
14位 ズートピア
15位 映画 聲の形
16位 ちはやふる 上の句、下の句
17位 ルーム
18位 デッドプール
19位 SPY/スパイ
20位 シビル・ウォー キャプテン・アメリカ

 

何者 (新潮文庫)

何者 (新潮文庫)

 

 

 

 

2016年新作映画ベスト50プラスワースト1 ②

本当にバカなんじゃないの…っていうくらいクソ遅いんですけど、去年見た新作映画のレビュー記事の第2回目です。

前回は48位から31位っていう「ゴミって訳じゃないけどもう見たくないヤツ」が半分くらい占めてる読む方も書く方も何のための文字列なのかよく分からない地獄みたいな第1回だった訳ですけど。

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今回は30位から11位までを供養させてもらう感じです。公開から結構時間経って、レンタルでも相当借り易くなってる作品が結構あると思うので、何かの参考になれば幸いです。家にパソコンが無いんで累計でネットカフェに1万円くらい払ってコレ書いてますからね俺。広辞苑やっと買えた黒人みたいな怪しい文字列を積み重ねて。

 

では30位から。

 

 

30位 スティーブ・ジョブズ

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スティーブ・ジョブズの伝記的映画であれば2013年のアシュトン・カッチャーが主演した作品の方がそういうテイストが強いんだと思うんですけど、よりエンタメしてるこちらの方が個人的には好きですね。今作は構成部分で「忠実に見せる」という作劇方法を選ばなかった分、スティーブ・ジョブズという人間の業績を追いつつも、そこをエンタメとして昇華していて、脚本の巧みさが印象に残りました。

 

 

時代を経ながら、3つの新商品プレゼンの寸前40分を並べた構成に最初は驚いたんですけど、今となってはアップルという会社そのものであったり、共に働いていた同僚たちであったり、彼が生きていた時代と彼との関わり合いを表していくにはこれ以外の方法は考えられなかった気がします。1幕目、2幕目序盤での登場人物たちの一挙手一投足が後々の幕目で彼らの心の移ろいを表す伏線にもなっていて、凄く映画を見ている〜俺〜っていう感じだったんですよね。

もう人生を一度やり直すチャンス、成長するチャンスは、人が生きている限りきっとある、というラストの締め方も胸を打ちました。ダニー・ボイル作品は個人的には「127時間」が好きだったんですけど、ブッチ切りで今作かな、と思える程に傑作でした。

 

 

 

29位 スポットライト 世紀のスクープ

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神父による児童への性的虐待と、その事実を把握していながらも隠蔽を繰り返してきたカトリック協会のスキャンダルに新聞記者たちが挑む、っていう社会派サスペンスっていうんですか。そういうジャンルの映画でした。

 


日本の山奥に住むオタクには遠すぎる話の様に様に思えるあらすじなんですが、段々と物語が進む内に虐待被害者たちの取材を見せてから、「もしかしたら主人公たちの幼少期でもこうなる可能性は多いにあったのかも…」と匂わせる演出が中盤にあるんです。コレで一気に、実はこの物語は俺の人生の中にも、もしかしたら「運がよかった」っていうただ一点で回避出来ただけで、もしかしたらあの角を曲がらなかったら、人生に深い影を落とす様な出来事があったのかもしれない、っていう凄く普遍的な「理不尽で一方的な悪」を描いていた事に気付いて、山奥に住んでる俺にも物語が一気に身近な物に感じられました。


少しずつ、少しずつカトリック協会の闇が暴かれていくっていう描写になっていくんですけど、それを明らかにしていく手段が「とにかく足を使う」っていう、本当にそれだけなんですよ。
色んな所に行って、色んな人と会って、話を聞いて、会議して、また色んな所に行って、色んな人と会って、会議して…っていう地味な作業の繰り返しての果てに、何かとんでもない所に、いつの間にか足を踏み入れつつあったっていう見せ方が本当に上手だし、丁寧に話が進んでいく分この事件の恐ろしさも存分に味わう事が出来て。
物語の着地が「コレで全て解決」という所ではなく、あくまで問題提起に一つに落ち着かせている所にも、すごく好感が持てました。この事件は本当にあった事で、今も世界のどこかで行われている事件なのかもしれなくて、ノンフィクションとして凄く真っ当な在り方である映画だと思います。

 
 
 

28位  アイアムアヒーロー

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ゾンビ映画ってほぼほぼ見た事が無かったんですけど、邦画でここまでゴア描写がキツいアクションエンタメが出来るんだ!って凄く嬉しくなった1本でした。
普通に怖いんですよ。序盤から中盤にかけてまでの日常が少しずつ壊れていく描写が本当に嫌で。大泉洋が彼女の部屋を再び訪れる下りとか、仕事場の玄関から居間の突き当たりまでを主人公の視線を追う形でゆっくりゆっくり見せていくシーンとか、マジで怖かった。


街がゾンビに溢れていくまでの過程を追った前半と、主人公がある地点まで辿りつくまでの後半とで2部構成になっている映画なんですけど、前半終わりと後半終わりとで邦画では見た事が無い絵作りをしていて、クライマックスが複数ある感じなんですよね。
個人的に好きだったのは、やっぱり前半のクライマックスなんですけど。
主人公の生活圏内にドンドン異変が起きてきて、逃げて逃げて逃げた矢先にパッと周りを見たら、もうなんか世界の終わりっぽかった…っていうヤツで。狭い路地の中でカットを切らずにリアルタイムでドンドン人が食われていく描写が入りながら、やっとの事で大きな通りに出れた!と思ったら後ろから更に大物がドン!!みたいな。


多分どこかで編集してるんだと思うんですけど、何が起きてるのか理解できずに呆然と立ちつくしてて食われる人間、家からやっと逃げられた!と思った矢先に扉から出てきた家族に追いつかれて食われる人間、警官に助けを求めに行ったら警官に食われる人間、ゾンビから夢中で逃げていたらトラックに轢かれて死ぬ人間、そういう有象無象の死を主人公のすぐ近くでシームレスにドンドン見せていくんでんです。
前半の違和感が少しずつ少しずつ積み重なって、表面張力ギリギリになった所で、こういう「あと20回見てえ!」みたいな地獄絵図があると、映画としてメチャメチャ引き締まって見えるんですよね。もう2度と見たくないけどもっと見てえ!みたいな。「シン・ゴジラ」の東京破壊シーンもそんな所ありましたけど。もっとミクロの地獄絵図がここにはありました。

 

 

27位 劇場版 響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ

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2期も終わってもう1ヶ月って感じですね。
アニメシリーズ1期を2時間の劇場版として纏めた、所謂総集編っぽいヤツです。
ただ、アニメシリーズでは吹奏楽部の群像劇っぽい所があったと思うんですが、劇場版では久美子と麗奈の関係性の始まりと構築っていう点を中心にしているので、アニメシリーズを鑑賞済みでもまた違った解釈で楽しめる様になっています。
なんなんですかね、アレ。もう何回も見ているのに橋の上での久美子の「もっとうまくなりたーーーい!!」で涙腺が死んじゃうヤツ。あー叫ぶ叫ぶ、ここで叫ぶ、来るよー…でも泣いちゃうヤツ。こんな感じで死を迎えるとしたらメチャメチャ嫌なヤツですね。あー死ぬ死ぬ、俺ここで死ぬ、あー来るよ、3、2、1…で死ぬヤツ。
ただやっぱり総集編なんで、場面転換での説明としてのナレーションや説明台詞が多めだったりするんですが、最大瞬間風速だけでいえば洋画邦画問わずに今年の映画の中でも相当面白かった1本だったと思います。

 

 

26位 ブリッジ・オブ・スパイ

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スピルバーグの最新作です。
公開が去年の1月だったって事もあって、どうしても最近見た映画の方が印象が強くなりがちなんで順位もこんな感じになってしまったんですが、やっぱり傑作だったと思います。スピルバーグ×コーエン兄弟って盤石すぎる布陣ですよね。カカ、セードルフガットゥーゾピルロのダイヤモンド型のミラン全盛期時の中盤編成みたいなね。伝わってますかコレ?


地味な映画だし、アクションも殆ど無いはずなんですけど、最高にハラハラして最後はスカッとして、良い映画見た~楽しかった~って清々しい気分で映画館出ていける様な、そんな映画でした。シリアスな話なんですけど、やっぱりコーエン兄弟だけあって所々笑ってしまう様なシーンもしっかりあって。「ココのコイツの顔見たいな~リアクション見たいな~」っていう所は絶対ちゃんと見せてくれたりしてて、コーエン好き…って再度確認しました。

 


後はやっぱり「ざまあみろ!!」感が良いんですよね、この映画。序盤でトム・ハンクスが電車内でロシアスパイの担当弁護士だったって事で、明からさまに乗客から侮蔑の視線を向けられるんですけど、終盤に同じ様な構図、同じ様なシチュエーションで、今度は180度違う態度を周囲の人間にされる感じとか。ありがちなんだけれど、こういうの1個あるだけで映画を見てる感じがしてくるというか。
もう少し詳しいレビューは以前書いているので気になる人はそっちも見てもらいたいんですけど、とにかく満足度の高い1本であった事は間違いないです。1月公開だともうレンタルショップでも旧作落ちしてると思うんで、迷ったら是非。

 

askicks1248.hatenablog.com

 

 

 

25位 君の名は。

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新開誠のベストアルバムみたいな映画でしたね。
イヤ、でももう良くないですか?この映画。もう何か皆見てるし、Twitterで感想書いて4Pの漫画書いてるし、俺の感想なんかいらないでしょ?この順位なのって今年はアニメ映画で面白かったのが結構あったんでっていうのもあるんですけど、友達が沢山いる映画っていうのもあるし。俺が言わなくても…みたいな所もちょっとあって。凄い好きですけどね。

 

 

24位 レヴェナント 蘇えりし者

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去年のアカデミー賞受賞作ですね。「タイタニックがディカプリオの助演男優賞だけノミネートも無かったっていう因縁がありましたから、本人にとっては十数年ぶりに借りを返したみたいな感じなんですかね。


色んな風に読み取れる作品だと思うんですけど、個人的には「水」とか「循環」が凄く印象的に感じた映画でした。最初のカットそのものが流れ行く水だったと思うんですけど、水って延々と循環していく物じゃないですか。川から流れ、海まで辿り着いて、また雲となって川から流れるっていう。この作品では多くの死者が出るし、多くの殺人が行われるんですけど、生まれ、育ち、死に絶え、そしてまた地に帰っていくっていう大きな大きな循環の中には人間ももちろん含まれていて、その循環の中には人間の善悪は全く関係なく、平等に降り注いでいくっていう残酷だけど真っ当なルールがあって

 


思えば前作の「バードマン」も、メチャメチャ特殊な映画で、見た人によって受け取り方が全然違う作品だったと思うんですけど、「表現をする者と表現を受け取る者のズレ」っていう、人間には絶対に抗えない事象についての話なのかなと個人的には思っているんですよ。それを考えれば現代劇と伝記映画っていう前作と今作で全く異なる舞台においても、描いてる事には一貫性を感じるんです。しかもそれについて「諦め」を描く事は絶対にしないっていうのが、俺が「バードマン」も今作も好きになった理由でもあるんですけど。156分っていう長さも「いつの間にか遠い所まで来たんだな…」みたいな果てしなさがあったし、必要な長さだったのかなとも思うんですよね。

 

 

23位 サウルの息子

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ホロコースト物です。
ユダヤ人の大虐殺が行われていた戦時中に、主人公はホロコーストガス室で「ゾンダーコマンド」と呼ばれるガス室の掃除人として働かされています。機密を漏洩させない為、主人公もいつかは殺される運命にあるんですが、ある日死体の中に自分の息子を見つけ、せめて神父を呼んで正式に埋葬させてやりたいっていう事で、敷地内を右往左往するというのが本筋なんですがとにかく映る情景がことごとく地獄なんです。地獄巡り体感型POV映画って感じなんですが。


撮り方が凄く独特な作品でもあるんです。カメラが主人公の後ろ側に回って肩越しに対象物を見せていく、という撮り方だけでほぼ見せていくんです。主人公の身から近い物に関しては何とか画面に映るんですが、少しでも遠い所にある対象物に関してはピントを合わせないし、俯瞰する様なショットもほぼ無い。視野を狭めるという事で、物語への没入感、緊張感の持続、見ようとする観客たちの想像力を刺激したりっていう狙いがあると思うんですけど、それ以上に「主人公が意識から外していて、もう見ようともしていない物」という演出にもなってるんです。


足元には大量の裸の死体があって、吐瀉物がブチまけられていて、ただ何十人何百人の叫び声だけはどこからか聞こえてきて…っていうのを、他の登場人物の目線で物語を語ったり、フラッシュバック的に回想シーンを入れたりといった「映画的な見せ方」を選択していないという事で、主人公の擦り減ってしまった精神を語らずにして描いてしまってるんですよね。

ボヤけたピントの向こう側でいつ誰がどのタイミングで動くのかとか、何を写して何を写さないべきなのかとか、撮る側のリテラシーの高さが伺えると共に、撮影がマジで神ががってる作品だと思います。

主人公の取る行動が無責任すぎて物語に乗っていけないっていう所もあるんですよ。全編に渡ってあまりに独善的過ぎるし、100パーセントコイツのせいで死人も出てるし。物語で語られてない所で酷い目にあった人もコイツのせいでメチャメチャいると思うんです。ただ、人間としてどうしても守らなければならない一線をその姿から感じるというか「人間辞めたくねえ」みたいなのが切実に伝わってきて、地獄の中に1ミクロンの希望が見えるっていうか。本当に1ミクロンなんですけど。「ハー地獄」っていうため息が2億回出た107分でした。

 

 

22位 葛城事件

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気持ち悪い映画なんですよ。登場人物の中に1人も好きになれる人がなくて、救いが無くて、只々最後まで暗い映画なんです。通り魔殺人の犯人家族の話ではあるんですが、明らかに秋葉原の通り魔殺人をモチーフにしてるような所があって。服装とかモロだったし。
家長として一国一城の主でありつづけたいっていう、もう呪いくらいになってる強迫観念に囚われ続けた三浦友和が本当に良くて、「ヘイトフル・エイト」のサミュエル・L・ジャクソンくらいの三浦友和オンザステージ感がありました。

 


こういう「父親というのはかくあるべき」みたいなのの暴走と破滅って、俺はもう自分の父親を連想せざるを得ないんですよ。まあ借金作って母に離婚させられて以来もう10年くらい会ってないっていう、どこにでもある話なんですけど。父は父なりに一家の長として虚勢を張るじゃないですけど、身の丈以上の事をやり切ろうとしていた部分もあったのかなと思う様な年齢に、俺ももうなっていて。

家族がドンドン荒んでいく中で、三浦友和の奥さん役の南果歩に「なんでこんな所まで来ちゃったんだろ」みたいなセリフがあるんですけど、もう他人事とはちっとも思えないんです。いつの間に父は家族っていう入れ物で生活する事を諦めたんだろうとか、なんで俺は無関心を装って見て見ぬフリを続けてきたんだろう家族なのにとか。考えてもどうしようも無い事ばっかりが浮かんでは消えていくんですけど。

 


劇中でも父から一旦逃げて、母が借りたアパートの一室で息子と他愛無い話をしている合間だけは「これから何とか生きていこうね…」みたいな希望の兆しが見えて、文字通り部屋の中に少しずつ少しずつ光が差し込んで来て…っていう中で、部屋を突き止めた父が登場した途端に始まるある演出とか、もうなんか「辞めろ!!!!!」って感じですよ。本当に。メチャメチャ好きな映画だけど、もう2度と見たくないっていうか。
今年の邦画は面白いのが沢山あったんですけど、コレを筆頭に「もう見れない…見たく無い…」っていうテンションになる事がまた多かったですね。嫌な所を抉られて帰るっていう。凄い好きなんですけどね、コレも。絶対見て損は無いんです。

 

 

21位 ロスト・バケーション

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美女vsサメって聞くと「アー」って感じのジャンルムービーかと思うんですけど、「どうせサメがドンドン人を食い殺していく中で美女がとんでもない方法でサメを爆裂四散させるんでしょ?」では収まらない魅力ある映画だったと思います。美女がとんでもない方法でサメを爆裂四散させる事はさせるんですけど。


いきなりこの映画ってPOVでサメに喰われていく映像から始まるんですよ。「イントゥ・ザ・ストーム」ってディザスタームービーが最近ありましたけど、ああいう巻き込まれつつある死につつある人間を一人称視点で、しかも「何故この映像は一人称視点で観客たちが見る事が出来るのか」を自然な描写で取り入れるのってもう定番になってますよね。「コイツに食われて死にたくさな」っていうか。「こういう死に方だけは勘弁してほしいよね…」みたいなのが3分くらい続くの本当にキツくて怖くて。
岸は目の前なのに…っていうシチュエーションも歯痒くて凄く良かった。嫌な見せ方をするんですよ、ああもうダメだ…神様!お願い!って視線を遠くに向けても「やっぱり誰もいない」っていう単純な目線の移動にとんでもない絶望感があって。撮り方、特に位置関係の見せ方がメチャメチャ上手かったです。


主演が上手いっていうのも勿論あるんですけど、「今にも満潮で沈みそうな岩の上で知恵を絞る」と「その岩の上からサメと格闘しながら岸へ助けを求めようとする」っていうフェイズの切り替えのテンポが良い事と、フェイズが切り替わる毎に「生き延びる為」っていう目的に直結してる事件がちゃんと毎回発生するんで、物語への興味がずっと続くんですよね。主人公が腕に巻いた時計のデジタル表示で「満潮まであと◯時間」っていう死亡条件をいちいち提示してくるのも、親切設計プラス緊張感っていうか。
この映画って100分も無いんですよ。それが劇中の主人公の命のタイムリミットの短さともリンクしていて、見やすいプラスアルファでその他諸々っていう、上手く設計された1本になってると思います。 単純に「医学の知識のある人間が助けを呼べない状況でサメに負傷させられた時に一体どうするか」っていう所で見たりしても普通に面白かったりするんで。

 

 

20位 シビル・ウォー キャプテン・アメリカ

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今のアクション映画の最高峰で最先端を行ってるのがマーベルの新作だと思ってます。しかもそれを毎回毎回更新しちゃってるっていう。
物語はいつもの感じなんですよ。もうお前ら何回自分で自分のケツ拭けなかった話するんだっていう感じで。ここまでずっと足し算足し算でシリーズが続いてるんで、もうそろそろ限界が来てもいい頃だとは思うんですけど、でもやっぱり期待せざるを得ないですよね。「キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー」くらいから心配してるんですけど、でもマジで何作もこれからの映画史に残るであろうアクションシーン作っちゃってますし。


空港のシーンの一連の流れとか、もう映画館で声を出せない事をこんなに惜しく思った事は無かったですよ。もう本当に楽しくて。あそこだけ応援上映してほしい。「んなバカな!!」って笑いながら生搾りグレープフルーツの飲みたさ。
「正義とは何か」みたいな所に序盤の流れから行くのかな?と思いきや、完全にエンタメに持っていってくれた所とかも凄く好きで。こういう所がDCユニバースとは違う所なんだよなって感じです。

 

 

19位 SPY/スパイ

SPY/スパイ 2枚組ブルーレイ&DVD(初回生産限定) [Blu-ray]

 

題名通りにスパイ映画なんですけど、主人公が「そこそこ動けるデブのおばさん」っていう、コメディ色かなり強めの映画でした。
主演がメリッサ・マッカーシージュード・ロウ、ジェイソン・ステイサムが脇を固めてるっていう面子的にも相当豪華だったりして、DVDスルーだったのが不思議なくらいでした。


とにかく手数がメチャメチャ多いんですよ。メリッサ・マッカーシーの見てくれからして面白いっていうのはあるんですけど、出てくる度に問題を大きくして帰ってくだけのステイサムの使えなさとか、「えっ、こんな所も弄ってくるの!?」っていうすっごい細かい所の小ネタとか。太ったおばさんに太ったおばさんの変装させる下りとか本当にバカで面白かった。数えてないから分からないですけど体感で1分に1回くらいのペースで笑かしてくるんで、凄く見応えがあるんですよね。


ただ、俺がこの映画好きなのが、そういうコメディシーンのとんでもない手数の多さと並行して、意外にちゃんとスパイ映画してるっていう所なんですよね。序盤のオペレーター目線からエージェントの仕事を見せるっていう演出も結構新鮮で良かったですし、魅力あるキャラクターにコメディさせながら、話がドンドン進んで行くんでそのスピードのまま緊迫感のあるラストまで持っていってくれるんですよね。もう見てる内にキャラクターに愛着が付いてしまって最後の最後まで凄く楽しく見られたし。頑張れ!って言いましたもん俺。見てて。俺が「がんばえー!!」って叫ぶのはプリキュアでなくて太ったおばさんにだったんだね…
スパイ映画として普通に作れば結構面白い作りになってるっていう所に、物語の進行を邪魔をしないコメディシーンがバンバン入ってきてる感じがあって、「見やすさ」と「興味の持続」を両立させていたんじゃないかなと思います。監督のポール・フェイグとメリッサ・マッカーシーのコンビで今年は「ゴーストバスターズ」もありましたけど、個人的にはこっちの方が断然好みでした。

 

 

 

18位 デッドプール

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下ネタありゴア描写ありメタネタありっていうかなり規格外のアメコミなんですけど、蓋を開けてみれば凄く真っ当な作りをしていて、とにかく「見やすさ」を第一に考えられた映画になっていたと思います。


下ネタメタネタってまあ当然面白いし好きなんですけど、あんまり乱発すると物語の根幹がグラッグラになりがちじゃないですか。話の運びやテンポがどうしても崩れるし。今作も第4の壁っていうんですか。それを意識したキャラクターなんですけど、デッドプールさんは。ただ、それが作り手側が本当に気を使っていて、物語の邪魔になるどころかドンドンドンドンスピードアップさせていく要因にまで昇華させてしまっているんですよ。


それがその、デッドプールっていう底抜けに明るくてどんな時にも茶化したりふざけたりするキャラクターが、とんでもなく不幸な生い立ちを背負っていてなんとか生きていく為に、自分を守るが故のおふざけである、っていう事が段々と明らかにされていくんですね。ここでちゃんとデッドプールの下ネタメタネタありのキャラクター像と物語の根幹とが凄く上手に相互関係にさせていて、終盤までの見やすさを保証してくれているんですよね。


あと、ライアン・レイノルズ力(ライアン・レイノルズぢから)ですよね、やっぱり。かなりアドリブも多めでやってたって聞きますし、彼の俳優人生の山あり谷ありを考えると、もうデッドプールはライアン・レイノルズそのものとしか考えられないんすよね。ロッキーとスタローンがもう完全に同化してる様に。「レスラー」っていうミッキー・ロークの映画もありましたけど、ああいう実像である俳優と虚像である映画の登場人物が映画の中で完全に一体になったっていうのを見ると、映画でしか出来ない表現を見た気がして、凄く胸を打ちますよね。
あとは、上映時間も短めで本当にテンポ良くドンドン進んでいくんで、しかもそれが心地よいスピード感なんですよ。「見やすさ」だけで言えば、2016年の新作の中では個人的にはトップだったかなと思います

 

 

17位 ルーム

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撮り方がマジで上手いんですよね。
何年も監禁されていた親子が脱出し、外の世界に触れていくっていう作品なんですけど、狭い空間を広く見せるっていう「撮る技術」を「主人公の価値観の変化」っていう所に組み込んでしまってるっていうのでもう天才的だと思うんですけど。


監禁からの脱出って聞くと、アクションやスリラーっぽい感じのジャンル映画を連想するし、俺も見る前はそういう部分を期待していたんですけど、見た後に思ったのがこの作品が持つ普遍性みたいな所で。「異物と触れ合う」ってどんな人間でも怖いじゃないですか。そこには自分とは違う他者があって、文化があって。
この映画って本当に後半以降は淡々と静かに進んでいくんですけど、主人公は産まれた時から監禁されていたから、眼に映る物全ては異物であって、その異物との接触を何度も何度も繰り返し見せていくんですね。


そこには勿論映画なんで、自分を愛してくれる人、自分を受け入れてくれる人を最終的には描いていくっていう形にはなるんですけど、俺がこの映画の好きな所って、他者の目線から見た異物、つまり「自分(主人公)」への目線を凄く丁寧に描いてる所なんです。そこには付き合い方に思い悩む人もいるし、何とか対話を積み重ねようとする人もいるし、頭から存在自体を拒む人もいて。
『主人公たちがどうやって外の世界に溶け込んでいくのか?』が本筋ではあるんですけど、「異物をどう受け入れるか」を、逆に主人公に向けた目線として物語に組み込んでいくっていう所で外の世界と触れ合うっていうテーマが凄く多角的に語られていたと思います。
誰にとってもこの世界は異物だらけであるけれど、思ってるよりもずっと世界は生きやすい所なんだよ、っていうのを、静かに上品に見せていくこの映画がもう堪らなく好きですね。「あの部屋に帰りたいんだよ~」って泣く主人公の男の子とかさ、もうそんなこと言うなよ~って俺まで泣けてくるんですよ。髪長い美少年だし。最高ですよ。

 

 

16位 ちはやふる 上の句、下の句

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メチャメチャ面白かったです。広瀬すずが本当に良くて実写にするにはちょっとキツそうなコメディ描写も、何故か広瀬すずだと違和感があんまり無かったりするんですよね。ボディバランスの強さですよね。そういう。
こういうのはもう、その俳優にしか持てない天性の物なんだと思うんで、広瀬すずがこれから出る作品は出来る限りチェックしたいな…と思わせる作品でした。「四月は君の嘘」は見てないんですけど。


青春モノと恋愛モノかと思いきや、結構熱めなスポ根モノだったりするんですよ。青春恋愛っていう要素は勿論あるんですけど、何故主人公たちは勝つ事が出来たのか?っていう、一番大事なロジックの部分がちゃんと作り込んであるんで物語にもドンドン乗っていけるし、説得力もあるし、一番の見せ場で空滑りしていない。
しかも主人公ではない、脇役たちの所謂「持たざる者」にもしっかりスポットライトを当ててる所も俺は本当に好きで、「勝ちたい理由」が彼らの中で少しずつ構築されいくその過程が、とにかく熱い。結構食わず嫌いで見ないっていう人が多い作品だと思うんですけど、特にこの「上の句」は青春映画として名を残す作品になっていくと思うので、是非見てほしいです。レンタルショップでももう出てますからね。

 

 

 

15位 映画 聲の形

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いや、もうね俺が何回「硝子!!!」って今年叫んだと思ってんですかって事ですよ。本当に。硝子!!!!!お前…本当に…硝子!!!!!!!!!


いじめと障害を描いた作品と思われがちだと思うし、そういう要素は勿論確かにあるんですけど、こう何て言うんですか。「俺」と「他者」との関係性ってどういう所に着地していくんだっていう、コミュニケーションとはなんぞや?みたいな所にまで言及していて、単純にコレはこういう映画です。とは言えない作品にまでなっていると思います。


本当、面白かったし見て欲しいんで、出来るだけネタバレをしない様に書きますけど、俺が一番好きだったのは原作の最終話よりも若干前の話の落とし所を、今作のラストシーンに持ってきた所なんですよ。アレって石田が自分っていう存在と他者っていう物の「分かりあえなさ」を受け入れたっていう事だと個人的には思っていて。1人の少年が世界を生き抜く為の自分だけのやり方を見つけたっていうんですか。そういう風な終わり方に思えて、彼は彼なりに子供である事を今辞めたんだなと思えて。ある種の「青春の終わり」を感じさせるラストショットが、嬉しくもあり悲しくもありっていう凄く命名し難い気持ちにさせてくれたんですけど。


ただやっぱり、耳が聞こえようが聞こえまいが、他者の声っていうのは凄く遠くて難しくて、他者の心の内に他者の声が響くなんてのは途轍もなく果てしない事なんだと打ちのめされると同時に、だからこそ、その声を聞く事の尊さっていうんですか。俺たち分かりあえる日は来ないかもしれないけど、でもなんとか手を繋いでやっていこうやっていうさ、大事にしなければならない何かを見た気になった映画でした。


演出もメチャメチャ良いんですよ。仲間と喧嘩別れした後に西宮とのデートですっ転んだ後に差し伸べられた手を掴もうとすると、逆光で陰になった西宮の姿とかさ。「あっ、もう彼女の心はここからは届かない所に行ってしまった…」っていう違和感絶望感溢れる素晴らしいカットだったと思います。音楽も最高ですしね。西宮の聴覚をモチーフにしたノイズ混じりの劇盤は本当に必聴ですよ。もうなんか新しい事だらけで戸惑うんだよこの映画。マジで。


あとコレだけは言っておきたいんですけど、俺この映画長野の映画館まで車で片道1時間かけて通って見たんですよ。そしたら後ろの席にいる「家の方針で中学校行ってません」みたいな4人がもう上映時間130分の内の260分ずっっっっっっと喋ってるんですよ。良いシーンあると携帯で写真撮ってるしさ。もうマジでこういうバカがいるから映画館離れが進むんだよ。もう映画館は観客の首に一定のデシベル以上の音量で喋ると爆発する首輪とかを全員に付けて下さい。お願いします。

 

 

14位 ズートピア

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まずもう最初の15分ですよね。人形劇で作中内の世界観を語りつつ、主人公の生い立ちを見せつつ、そして主人公が大人になって都会に出ていくて、っていう過程で、電車の車窓から「多様性のある世界」を魅力たっぷりのビジュアルで次々と見せていくっていう序盤の15分。ここでもうガッチリ心が掴まれちゃうんですよね。俺の「序盤の15分最高賞」の受賞が決定しましたよね、ここで。去年は「海街diary綾瀬はるかが一緒に暮らす事を提案した時にかなり食い気味に『行きます!』って答える広瀬すずだったんですけど、もう今年は完全にズートピアです。最高。


ただ、その多様性の在り方を主人公たちが見て、感じて、それで出した答えって「自己と他者は違う」っていう結論だったじゃないですか。私とあなたは違う存在で分かりあえないかもしれないけど、でもだからこそ私たちならそれを認めあって暮らしていく事は出来んだろ!っていう、違う存在であるからこそ多様性は維持できるんじゃないか、みたいな所に着地したのが、本当に尊い映画になったな~っていう感じでしたね。
ニンジンペンの使い方とか最高だったし、ナマケモノのキャラクターの強烈さとか最高だったし。あの毛穴一本一本まで見えそうな細かさとか、笑う時の顔の筋肉の動きとか、CGも本当に凄かった。

 

 

13位 ハドソン川の奇跡

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イーストウッド、良いっすよね~~~~~~~。イーストウッドは良い!良い!俺がどれだけイーストウッド好きだか皆さん知ってます?「グラン・トリノ」とかもう絶対生涯オールベストに入る1本だし、好き過ぎて卒論をイーストウッド映画におけるナンヤラ観とか何とかにしたくらいなんですけど。


この作品もね、本当に良い映画なんですよ。
実際にあった飛行機事故を題材にしているんですけど、まず演出の巧みさですよね。ハドソン川への不時着って、離陸してから本の十数分の出来事だったから再現するにしても、映画にしてはどうしても短いシークエンスになってしまう訳じゃないですか。そこを機長目線、乗客目線、オペレーター目線、救助に当たった隊員目線と色んな角度を付ける事で、物語の骨組みをドンドン強固にしていくんです。ただ、本作は終盤から法廷モノの要素がちょっと入ってくるんですけど、事件の本質に当たる部分は最後の最後まで見せないし、しかもその不自然さには全く気持ち悪さを感じないっていう。


世界的に有名なニュースなんで、救助される事も、奇跡的に死者も出なかったっていうのも知ってはいるのに、物語の骨組みというか土壌が凄くしっかりしてるんで、不時着に成功して病院で「死者はいなかったよ」って報告を受けた時には機長と一緒に俺も「良かった……」って凄く肩の力が抜けたんですよね。
そういう色んな角度からこの事件を反芻するっていう演出を通してに気付くのは全員が全員「やるべき事を一生懸命やった」っていう事で。当たり前の様に事に思えるんですけど、でもそれに尽きるんですよ。コレは「オデッセイ」とかにも通じるですが、1人1人の力は小さいけれど、それが積みさなって協力し合う事で大きな事を成し遂げるっていう過程をこんなに丁寧に見せられると、やっぱ感動しますよね。

 

もうね、良い所ばっかりあるんですよ、この映画。機長の鋭い目つきだけが暗闇の中でブワっと浮かび上がる最初のカットとか光と闇のクッキリした撮り方が、完全にイーストウッド映画っぽくてここ大好きだし、「もし着地に失敗して街に飛行機が墜落していたら…」っていうフラッシュバックも段々と少しずつ少しずつ飛行機が機長のいるビルに向かっていく描写とかマジで最高に怖かったし、あと墜落を確信したオペレーターの流す涙のタイミングとかね。もう本当、「世界で一番信頼できる男、イーストウッドって感じですよマジで。イーストウッドNHKの集金に来たらBS分も喜んで払いますよ。俺は。それくらいの信用度ですね。

 

 

12位 ケンとカズ

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主演ふたりの出で立ちがメチャメチャ格好いいんですよ。タイトルがバンと出た時の主演ふたりの立ち姿だけで「この映画絶対面白い!」って確信するし、実際面白いし。ジャンルとしてはノワールになると思うんですけど、「ヒメアノ~ル」しかり「葛城事件」しかり、今年の邦画、特に犯罪映画は豊作だらけでした。未だに洋画しか見たくないとか、邦画は面白くないの多いとか言ってる人間はマジで映画見てないし映画館にも行ってないのバラしてるだけなんで、せめて挙げた3本くらい見てから邦画はどうとか言ってほしいんですよ。邦画は食わず嫌いで見ないっていう人の価値観が絶対に変わる作品が今ドンドン出てきてると思うんで。


編集が凄く好きなんですよね。主人公が覚せい剤の売人っていう立場なんで、どうしても雰囲気としては重くなりがちなんですけど、序盤から中盤にかけてコミカルなシーンも多くて笑える所もありつつ、そういう所でキャラクター描写をドンドン積み重ねていくから感情移入して見られるし。
この映画ってモノローグを恐らく1個も使っていなくて、極力キャラクターの心情を台詞にしないっていう作劇を取ってるんですね。そこで「台詞にしない」という作劇を取る事で、逆にキャラクター自身も劇中で気付いていなかった感情が観客だけに伝わってくるっていうシーンがあって、そこが凄く胸を打って。「語らない」という事こそが、物語を雄弁に語っているんですよ。


浦安で撮られている作品なんですけど、淡々と動いていく物語の中に、小さな犯罪の積み重ねがいつの間にか大事になっていく過程が本当に朧げで今にも消えてしまいそうな希望の中で語られていく所とか、映画を見ている気が全くしないんですよね。俺の街にもケンとカズがいそうな感じがしてくるんですよ。終わりのない地獄から何とか抜け出そうとする2人の悲しさとか儚さとか、そういうの含めて全部が愛おしい作品です。

 

 

11位 シング・ストリート 未来へのうた

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映画館で見て本当に良かった作品でした。

過去作「ONCE」「はじまりのうた」とは違って、主人公のスキルがゼロから始まる作品なんですけど、それだけに「始めて作った詩が音楽になった瞬間」のシークエンスがメチャメチャ感動的に思えるんですよね。
主人公の周りには誰かの勝手な都合だらけでどうにもならない事ばかりが巻き起こるんですけど、でも音楽をやってる合間だけは何も考えなくてよくて、ここでは無い何処かへ行けて…っていうのが、まず主人公たちバンドが演奏するオリジナルの楽曲が凄く良いという所で、そこにも説得力が出てきて。「夢を持つこと」「芸術を生み出すこと」を死ぬまで信じ続けるのであろう少年少女たちの傑作ジュブナイルだったと思います。


あとは、「芸術が産まれる瞬間」の切り取り方ですよね。主人公たちは劇中で、自分たちで作った曲を好きなバンドの音楽っぽくする為に何とか試行錯誤するシーンがあるんですけど、そこに「音楽をやる醍醐味」に限らず、俺たちが何かに憧れて何かを作ろうとするっていう創作意欲の原点みたいな物を見た気がします。
「桐島、部活辞めるってよ」っていう、俺が凄く好きな映画があるんですけど、劇中に「なんで金にもならないし将来にも繋がらないのに映画なんか撮ってるの?」っていう問いかけがあるんですよ。何の為に好きな事やってるの?っていうか「好き」って何?っていう。「桐島」でもその答えは凄く胸を打つ形で用意されているんですけど、この映画ではまた別のアプローチでこの問いかけに答えている様な気がしていて。金にもならないかもしれない、何の腹の足しにもならないかもしれない、だけれどもそれでも「芸術」っていうのを死ぬまで信じ続け、追い求めていくのであろう少年少女の話として、メチャメチャ好きな映画になりました。

 

 こっちでも感想を書いていたりしてます。

askicks1248.hatenablog.com

 

 

 

という事で11位から30位までの発表でした。
一応順位なんか付けてますけど、この辺のヤツ、特に18位の「デッドプール」くらいより上のは1位でもいいんですよ、マジで。予め順位付けて書いてるのに、未だにどうしようどうしようって悩んでましたからね。そうしてる合間にもネットカフェでの使用料金はドンドン加算されているんですけど。お前らいい加減にしろよ。オイ。
 
 
次回は後編ということで、いよいよベスト10とワースト3の発表です。明日には更新できればと思っているので、よろしくお願いします。
 

2016年新作映画ベスト50プラスワースト1 ①

本当にマジで嘘でしょ…っていうくらいにクソ遅いんですけど、2016年に見た新作映画のまとめを書こうとしています。今。
去年は一応ベスト10だけ書いたんですけど、結構こういう映画の感想ってよっぽどの事が無いとすぐ忘れちゃうんですよね。なんで多分50本くらいしか新作見てないだろうっていうんで、「全部書けるっしょ!」つってクリスマスあたりからから書き始めたはいいんですけど、もう今2月になろうとしています。誰が今更読むんだこんなの。
もうアレですからね。最早「読者の皆さんにいい映画の情報を少しでもお届けしたい!」とか一切無いですからね。俺の中で。「勿体無い」と「供養したい」以外の感情がない。
そんなんでも「仕方ない、日本語覚えたての黒人が相手みたいな文章を読んであげよう」っていう方。もしいれば、このまま下に進んで読んで頂ければと思います。「20代後半にもなってど田舎で非正規雇用で働いてる映画の知ったかぶりでしか話せる事の無い人間の感想なんて目に入れたくもないんですけど。脳が腐るし。」っていう方。もしいれば「…うるせえよ!!」しか言い返せません。もう言い訳です。全部俺が悪い。はいはい俺が死ねば全部解決するんでしょ。


今年見た映画は新作53本、旧作85本の計138本でした。150本は見たかったんですけど、ペルソナ5が出たあたりで鑑賞本数がガクッと下がって、若干足りない感じです。
それと、年内中で公開された前後編モノ、見たのは「ちはやふると「傷物語」だったんですけど、こちらはそれぞれ纏めて1本っていう換算で感想を書いています。なので今回はベスト50プラスワーストっていう感じになってます。かなりの長文になった物もあれば、一言でサッと終わらせている物もあるんですけど、量が量なので、前編、中編、後編の3回に分けて掲載するつもりです。

ワースト3作品は後編で発表するという事で(っていうかワースト作品の感想が一番長いです)今回は48位から31位を一気に供養します。では早速。

 

 

48位 僕だけがいない街

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つまんなかったですね。
年末に深夜の地上波で「カイジ」やってたんで見てたんですけど、見た後だと藤原竜也って映画向きでない役者の様な気がメチャメチャするんですよね。それこそ「るろうに剣心の志々雄真実くらいに見た目からして強烈にデフォルメされたキャラクターじゃないとしっくり来ない様な感じがして。刺された石田ゆり子を抱いて泣くシーンとか完全にEカードやってるときの「ア"~~」だったし。これで笑うなっていう方が難しいんだけど…みたいな。


あと、やっぱり子役って難しいですよね。やけに小慣れた演技演技してる子供って、なんか鼻に付くっていうか、撮る側の力量が如実に現れちゃうと思うんですよ。子供が主役の映画って。そもそもあんまり実写化に向いてない作品だったのかもな…と見た後になって思いました。心が大人の子供を小学生が演じるのって、今回に関しては無理があったのかな、と。
2時間で纏める為に中盤以降は映画オリジナル展開になるんですけど、ここも本当に酷くて。オリジナル展開になった途端に大失速してく感じが「あっ作者変わった」っていうのが手に取る様に分かるんですよ。時間跳躍モノ的なSF設定のある話じゃないですか。この話って。原作ではリバイバルって呼ばれてましたけど、その時間の行き来をどうやって物語の辻褄と合わせるかっていうのを、原作ではかなり気を使っていたと思うんですよ。違和感を感じる感じないは置いておいて。


時間跳躍モノって、現実の時間軸で何かしらの事件がまずあって、それから過去や未来に時間跳躍して事件を解決もしくは解決の糸口を見つけた後、必ず最後には現実に戻ってくる事で物語が収束していくのがお約束じゃないですか。原作でもここの辻褄合わせにはかなり苦労していたと思うんです。かなりご都合主義的すぎる展開も多かったと思うし。
ただ、それでも原作がメチャメチャ面白かったのは、単純にクリフハンガー的な「次どうなる!?」が続いて、物語自体に魅力が凄くあったからだと思うんです。最初に「最悪な未来」像としての現実を見せているから、そこを回避しながら行動しなければならないっていう一番重要なルール設定がわかりやすく提示されているし、そこが最後まで緊迫感を持続させていて、テレビドラマ的な面白さがあったと思うんです。


ただ、今作ではあまりにも原作の展開をそのままやってしまってるんで、危ういバランスの部分だけが目立ってしまってるんですよ。犯人が上手く立ち回り過ぎてて違和感しかなかったり、警察が全然機能していなかっかり、その癖捕まりそうになると都合よくリバイバルが起きたり。30分の連続ドラマであればまだ何となく誤魔化せていたかもしれない部分が、2時間で連続して何度も見せられてると、ノイズが大き過ぎて物語に付いていけないっていうか。
しかも、作中で起こる事件って、死者が何人も出ていて、しかもその全員が子どもっていうメチャメチャ残虐な、恐らく日本の犯罪史に残る様な大事件じゃないですか。更に終盤のオリジナル展開では主要人物が死ぬっていうか展開になっていくんですけど、感動気な音楽と感動気な説明口調のモノローグで、何故か良い話っぽい締め方で終わってるんですよ。劇中で起きた事と登場人物たちとの心情がまたご都合主義的に片付けられていて、本当に典型的なダメ邦画見たな~~っていう感じで。


ご都合主義といえば、犯人が主人公の前で「自分がこの事件の犯人だ」ってハッキリ自供するシーンがあるんですけど、主人公は犯人が運転する車の助手席に座ってるんですね。で、喋ってる内に犯人が自供しながら人気の無い橋の上まで来て、なんか知らねえけど不穏な事喋りながら車停めて降りたと思ったら、主人公も一緒になって車を降りるんですよ。誰に促される訳でもなく。で、逃げる訳でも無く、抵抗する訳でも無く、犯人の正面にいて棒立ちなんですよ。


あのさ、主人公って身体は小学生の子どもなんだよね?相手は道中で自身が連続殺人犯だと明かした上で、恐らくここで自分を殺そうとしてる訳なんだよね?なんで犯人と一緒になってシートベルト外してゆっくりゆっくり車を降りて犯人と対面してんの?「アレ、主人公って確か丸腰だったと思うし、何か算段があるのか…?ここでかなり思い切ったオリジナル展開があるのか…?」と思ったら、当然の様に主人公は犯人に橋の上から突き落とされてんですよ。あっバカだった!っていう。どこも「身体は子ども、頭脳は大人!」じゃなかった。
多分「夜の橋で真犯人と遂に対面!」っていうシーンが撮りたかったからだと思うんですけど、撮りたいシーンありきで作ってるから、こういう意味わからない事になってると思うんですよね。この角度だと超エモいシーンになるし、ちょっとくらい不自然な行動取っても気付かないっしょ!忘れるっしょ!みたいな。


で、橋に落とされた!死んだ!と思ったら、何故かリバイバルが終わって身体は藤原竜也に戻ってて、病院にいるんですよ。
その事については特に説明も無くドンドン物語が進むんですけど、アレ?俺って何か見落としたか?って思うじゃないですか。「死んだら強制的にリバイバル終わるとかってルールあったっけ?」とか「原作みたいに植物状態にされて目覚めたっていう事にされてるって事か?」って思うんですけど、なんか藤原竜也も小綺麗な格好して普通にシャツ着てるんで植物状態だった訳では無いっぽいし、横にはすっかりオバさんになった妊婦の雛月いるし、石田ゆり子生きてるし、何事も無かった様に同じ時間軸の十数年後にいるみたいなんですよ。そこに対する説明は、結局最後までほったらかしなんです。


なんていうか、バカっていうか、ふざけてるっていうか、これまで原作が何とか気を使ってきた箇所全部すっ飛ばしてるんですよ。時間跳躍モノなんてもう珍しい題材じゃ全部ないし、その分観客のリテラシーも上がってる訳じゃないですか。だからこそ、こういう過去と未来の関係性における辻褄合わせって絶対やっておかないといけないし、そもそもそういう所が時間跳躍モノの醍醐味だったりって思うんです。
でも、もう辻褄合う合わない以前の問題ですよ、コレって。何と無くて作って適当にやっておいて纏めて感動気な音楽とモノローグ言わせておけば、なんとかなるっしょ!忘れるっしょ!みたいなのが透けて見えるんですよ。もうマジで「不誠実」以外に無いんです。この映画。特に後半。
主人公の母親役で出てきた石田ゆり子も酷かったんです。もう「ちょっとした方言を喋る石田ゆり子」でしかないんですよ。それを藤原竜也がア"~~母!つって呼ぶんだから、もうなんか笑っちゃって。石田ゆり子石田ゆり子素材のまま出てくるんで、何だコイツ…っていう感じでしたね。及川光博は完全に100点の配役だったと思うんですけど。


今年の邦画って凄く良作揃いで、特に漫画原作のサスペンス映画で面白いヤツがメチャメチャ多かったんですよ。「ヒメアノ~ル」とか「アイアム・ア・ヒーロー」とか。それだけに今になって振り返ってみると逆に目立ってる感じがしますね。

 

 

 

47位 X-ミッション

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面白いとか面白くないとかっていうか、意味が分からないんですよ。面白くはないんですけど。


詳しいレビューはこちらで書いているんですけど、やっぱり物語の推進力にスピリチュアル的な要素を持ってこられると俺は全然乗れないんですよ。「地球が持つ根源的な大いなる力と一体化するため」がゴールになってる映画を2時間見せられても困るっていうか。そうやって信者たちを騙して本当は金を巻き上げていた…とかなら全然腑に落ちるんですけど。っていうか、こういう『もっと具体的な目的を劇中で作ってくれよ!』って言ってる俺も作品内の登場人物にしてみれば「俗世に染まった愚かな人間」みたいな感じになるのが腹立つっていうか。


CG一切使ってません!とか前文句で散々言ってたと思うんですけど、アクションシーンに「メチャメチャ身体張ってます!」っていう所での物語的なカタルシスは一切無くて、ミュージックビデオにマジで余計なストーリーの要素が加わったみたいな感じでしかないんですよ。本当にただの羅列でしかなくて。まだ黙っててくれてた方がマシで。
まあでも、「父は捕鯨を守る為に捕鯨船の前に立ちはだかってそのまま巻き込まれて死んだの」→「お父さんは自分の意思を曲げない強い人間だったんだね」→「捕鯨船の方が強いわ」っていうシリアスシーンは最高の下りだったと思うんで、ここを見るだけでも価値ある映画だとは思います。

 

 詳しい感想はこっちにも書いています。もし興味があれば…。

askicks1248.hatenablog.com

 

 

 

 

46位 その女諜報員 アレック

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この順位辺りのものは本当に死屍累々って感じなんですけど、映画のルックだけは良い物が多い気がします。「話が進む」っていうのが唯一の救いっていうか。「終わりには向かっていってる」みたいなのがギリ分かるだけでもマシっていうか。なんか疲れが溜まってたりすると、相手が喋ってることが頭に入ってこない、ってことあるじゃないですか。「コイツの言ってる事はよく分からないけど、ネガティブな事は言ってるんだな…」しか脳が疲弊しきって理解してくれない、っていうのって誰にでも経験あると思うんです。それです。この映画。

一応アクション映画なんですけど、戦闘シーンの見せ方が「誰かが銃を構えながら移動している → 横から不意打ちする → 倒す」で8割くらい占めているっていうキツいヤツでした。もう主人公が銃構えて室内を歩いてるだけで俺の目はドンドン死んでいくんですよ。
主役のオルガ・キュレリンコってボンドガール張っただけあって綺麗だしアクションも頑張ってはいるんですけど、見せ方でメチャメチャに損させてると思います。解錠のプロで超優秀!っていう設定の割には3600個くらいヘマしてるし、っていうか解錠シーン無かった気がするんですけど。この映画で起こった出来事を120分の映画の序盤15分くらいに纏めてくれれば面白くなったんじゃないでしょうか。

 

 

45位 傷物語Ⅰ鉄血篇、Ⅱ 熱血篇

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良い所もあるんですよ。阿良々木と忍野とキスショットがチーム結成したシーンになると3人の姿を陰の中に入れて見せたシーンとか。映画的な演出をしているシーンも少しはあって。


ただ、別に俺は「シャフトっぽい演出」を見たいが為に金を払って見た訳で無くて、今作はもう作り手側が面白さとか見やすさとか、そういうのを作劇する事を選択してないんですよ。
とにかくその中身は空っぽであってもいいから「シャフトっぽい演出」を挿入すれば物語として成立すると思ってるみたいで。神谷浩史は俺超好きだし、そもそも物語シリーズが大好きでアニメを見だした様になったんですけど、スクリーンに大写しになった阿良々木と神谷浩史の吐息音を数分間ぶっ続けで聞き続けるのは、いくら何でも面白いとは思えなかったし、何の意図も感じ取れなかったです。

 


3部作なんだから見せ場は次作以降にあるから仕方ないのかもしれないですけど、じゃあもうコレ劇場版にする必要なんか全然無くないですか?お金払って、座席に座って、スクリーンで上映する以上はその作品内で完結する様な落とし所を設定するべきじゃないですか?会話シーンも上映時間を少しでも埋め合わせる様にしか思えないくらい間延びしたテンポの悪さで、見てて全然気持ちよくない。正直、物語シリーズの中でもシナリオがちゃんとある部類に入る原作だっただけに、こういう作りになってしまったのが残念でした。コレであれば8話くらいでTVシリーズで普通に放映していた方がずっと楽しめた様に思えます。

 

 

 

44位 インデペンデンス・デイ リサージェンス

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「大作映画っぽさ」があるだけで、中身とか全然無かった映画でしたね。嫌いではないんですけど。「ペットボトルの水を飲もうとするんだけど、横に置いたフタが肘に当たってテーブルから落ちそう!落ちるのか?落ちないのか?…やっぱり落ちるのか!?落ち…???…落ちませんでした~!」の連続だけが延々と続くんですよコレ。


イヤ、アクション映画とかって大体がこういう緊張と緩和の連続だっていうのは分かりますよ。ただ、それって当然ながら物語の根幹としっかり関わり合いがあるからこそのモノじゃないですか。今作はもうとにかく、「男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」つってペットボトルの蓋が落ちる?落ちない?の1ピコも面白くないスペクタクルがかなり多めなんすよね。「どうせ上手くいくんだろ?」って思ってると…まあ全部上手くいくし。「なんかヤバそうだけど結局誰かが助けに来てくれるんだろ?」って思ってると...まあ誰か来てくれるし。とりあえず120分埋めあわせる為に味の濃い調味料ぶっ込んでみました!みたいなね。


何度も言いますけど、嫌い!ってテンションではないんですよ。敵戦艦が地球に始めて攻撃する場面とか迫力あったし、各登場人物のキャラが立ちそうで立たない感じとか、全面的に嫌い!とは言い難くて、なんとも言えない魅力はあるんです。「ダメな子ほど可愛い」と言えるくらいの何かしらはあるっていうか。
ただ、「人間の実力を示す時が来たんだ!」つって演説する割には前作で敵側のエイリアンから奪った兵器でドンパチやってたり、地球覆うくらいのメチャメチャデカイ敵戦艦はやっつけても墜落せずにしっかり撤退してくれたりとか、気持ちよくないご都合主義な展開がアーって感じでしたね。オチもさあ…なんか気持ち悪いっていうかさ…。

 

 

他のキャストが全員揃った中でウィル・スミスとの出演交渉にかなりギリギリまで手間取ったらしいんですよ。で、結局ウィル・スミスが出演しなかった方の脚本B案を採用せざるを得なかった、っていう時間的な厳しい制約もあったらしくて。ウィル・スミスが出てたらどうなっていたかって感じはありますけど。まあでも、俺ウィル・スミスあんまり好きじゃないし…。「スーサイド・スクワッド」もあんなんだったしな…。出てもいないのに俺の中のウィル・スミス株はまた少し下がったっていう、そんな感じです。

 

 

43位 ブラック・スキャンダル

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最近WOWOWで放映してるんでまた見たんですけど、もっと話し合った方がいいよと思いました。奥さんともっと話し合ってほしい。


正直やっぱり面白みに欠ける映画だと思いました。ジョニー・デップの裏社会での成り上がり映画かと思いきや、そういう描写は何故か台詞だったりモノローグで語られるだけで済まされていて。前半部分は田舎のチンピラの泥臭い犯罪が楽しかったりするんですけど、後半部分からはジョニー・デップの殺人シーンくらいしか見所が無かったんですよね。主演3人が結託してっていう直接的な描写もやっぱり台詞だけで済ませてたり、カンバーバッチとかちょっと出てるだけで。っていうかカンバーバッチ、座ってたり電話取り次いだり飯食ったりしてる以外に特に何もしてないですからね。何なんだオイ。俺はカンバーバッチ目当てで行ったんだぞオイ。

 

 

 

42位 バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生

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なんか、本当にガッカリしたんですよね。コレ。見た直後はそんなでも無かったんですけど、思い返せば思い返す程「アレ?」ってなっていって。


登場人物がみんなちょっとバカなんですかね?機密データを何とかして盗むんだ!って言ってパーティに潜入するんですけど、そのデータのある部屋が喫煙室みたいなメチャメチャ目立つ所にあったり、その機密データが見れなかったら「見れないし返すわ!」つって手元に戻ってきたり。
ストーリーも前作の街破壊シークエンスを市民目線で見せていくのはまあ良かったとしても、いつまで経っても何を見ても「全部スーパーマンが悪い!」って取り憑かれた様に言い続けるバットマンにはちょっともう付いていけなかったです。その癖ほんのちょっとした事で「私はスーパーマンさんの味方です」つってコイツ即共闘してますからね、お前らもうマジで塾とか行っててくれよ、本当に。次作以降の伏線なのか知らないですけど、ヒーロー達がちょっと出てくる唐突なフラッシュバックも強引過ぎて何が起きてるのか理解できなかったですし。


逆に、バットマンが下向いた時にベン・アフレックの顎肉がダブッ~ってなった所は「何がしたいんだから分からない情けないバットマン像がくっきり浮かび上がったんで良かったりしましたけどね。ワンダーウーマンは結構良かったんじゃないですかね。登場シーン含め。ただワンダーウーマンもスーパーマンも神様みたいな物なんで、出てきた瞬間にバットマンはワイヤーですぐ回避おじさんになってましたけど。存在意義がもうない。

 

 

41位 スーサイド・スクワッド

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なんか凄く大人しいんですよね。
もう悪党たちが暴れまくって映画っていう枠組み自体をメチャメチャにぶっ壊してくれる様な作品を期待していたんで、結構見る前からハードル高めだったっていうのもあるんですけど、それにしたって見所が少ない。ハーレイ・クインは良かったって皆言いますし、マジでビジュアルは良かったと思いますけど、でも本当にそれだけで、物語を引っ張る要素も特に無かったと思いますね。


作劇もちょっと問題があったと思います。序盤数十分使って各キャラクターの説明が入るんですけど、戦闘をしながら各キャラクターにどんな特殊能力があるのかを説明をしていけば良い物を、わざわざ同じキャラの説明を何度も何度も見せるんで話が動かないし、テンポがとにかく悪い。終盤ちょっと手前で、デッドショット達に隠していた事件の真相が明らかになるんですけど、「一方そのころ…」みたいな感じで観客たちに真相の8割くらいは予め見せてるんで、デッドショットがいくら憤っても「いや、俺は知ってるけど…」っていう感じになるし。ちょっと最後のラスボス戦に向けて乗り切れない展開がありました。あと俺はウィル・スミス嫌いだな…っていうのを改めて確認した作品でもあって。DCユニバースの3作目っていう位置付けですけど、次に向けての布石にすらなれていなくてやっぱり期待感はドンドン削がれていきますよね。

 


ダークナイト」は俺メチャメチャ好きだし、バットマンシリーズで一番好きなんですけど「ダークナイトがメチャメチャ良かったんで、それに引っ張られる様に後の「マン・オブ・スティール」以降のDC作品もシリアス路線にドンドン傾いてしまってるじゃないですか。しかも全部あんまり面白くないっていうんで、「ダークナイト」にはちょっとした功罪みたいなのはあるな~って感じで。

 

 

40位 ゴーストバスターズ

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最後の最後までテンポが悪かった印象がありますね。
ガジェットもイマイチときめかない上に性能説明でグダグダ時間かけるし。生涯をかけて信じようとしたけど、結局は最後まで信じきる事が出来なかった物、っていうのが序盤における幽霊の立ち位置なんですけど、「オイマジで幽霊いたぞ!!!」っていう対面シーンは結構個人的には好きなんですけど。監督と主演が同じの「スパイ」とかテンポ重視で気持ちよく見られたんですけどね。正直、あまり印象に残らない作品でもありました。

 

 

39位 エージェント・ウルトラ

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ソーシャル・ネットワーク」が好きで、アイセンバーグがザッカーバーグ役だったのかザッカーバーグがアイセンバーグ役だったのかだったのか、ちょっともう分からなくなってます。
イコライザー」とか「96時間」みたいな、舐めてた人間が実は殺人サイボーグだった!的な感じかと思っていたんですけど、そういうジャンル映画としては見所が少なかったかな…って気はします。
そこら辺にある物を次々と手に取って取っ替え引っ替え武器にしていく感じとか、「イコライザーには無かった武器使用のスピード感とか結構好きなシーンはあるんですけど。続編を匂わせる終わり方ではあったんですが、終盤にあった続編への導入部の方が面白くなりそうだったんで、シリーズ化になる際のエピソード0的な作品になっていくのであれば好意的に受け取れる映画だったと思います。

 

 

38位 THE WAVE ザ・ウェイブ

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ノルウェーの映画です。ジャンルとしてはディザスタームービーになると思います。


津波がドカン系の作品なんですけど、俺がこの映画見て良かったなって思えたのが、日本とノルウェーって凄く似た環境にあるっていう事を映画を通してですけど知れたっていう事なんですよ。
ノルウェーって国土の殆どが山と湖で出来てるらしくて、その山から巨大な岩盤が崩れでもしたらいつでも大津波の可能性があるっていう導入からこの映画は始まるんですけど、この時点でいつどこにでも地震の起きる可能性のある日本と、メチャメチャ似てるじゃないですか。
ノルウェーがそもそもどういう国なのかなんて今まで知りようも無かったし、知ろうとも思わないじゃないですか、普通に生活していれば。でもこういう映画を見る事で、日本に住む俺が多分生涯で行く事も無いだろう土地に親近感を抱くって、何だか凄く貴重な体験をした気になるんですよね。それだけでも価値があるっていうか。


劇中では事が起きる前と後って感じで2部構成の様な作劇をしているんですけど、この映画の見所って事が起きる前にあると思うです。
「主人公だけが不審な点に気付く」っていうお決まりのパターンではあるんですけど、その中で見せていくのがノルウェーの雄大で静謐な情景をゆっくりゆっくり、凄く静かに見せていくっていう所の中にあるんで、もうその時点でこれまでディザスタームービーとしてはあまり見た事がない導入部の演出をしてるんです。
自然の雄大さの中にある不気味さが違和感から確信へと変わっていくその過程が本当に恐ろしくて、アメリカとかでは絶対に作れないであろう作品になっていると思います。後半パートからはよくあるジャンル物っていう印象はあるんですけど、前半部で見せた景観とのギャップで、よりショッキングに見える様に作劇していて、ここも凄く良かった。
何故か消防や警察が主人公が現場に辿り着いた後でも一人も姿を見せていなかったり、主人公のルックスが若干小物っぽい割には、劇中段々とヒーロー然っていうかもう神様みたいになっていて、ちょっとやり過ぎてる感は後半部あるんですけど、全体を通してみれば結構満足できる作品でした。

 

 

37位 ディーパンの闘い

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今年何回目かの団地ムービーでした。
結構重い話というか、シリアスな展開が多いんですけど、団地の中で主人公が少しずつ居場所を見つけていく描写が好きなんですよ。
アパートの屋上で主人公含めたおじさん方がビール飲みながら喋ってるんですけど、主人公がその会話に全然付いていけないっていうシーンがあるんですね。その夜に奥さん(奥さんではないんだけど)に「なんか皆が喋ってる事が全然理解できないんだけど、俺ってどこか変なのか…?」と相談に乗ってもらう下りとか、微笑ましくて好きでした。
コミュニティを築くこと、他者を知ろうとすることを通じて「自分自身が一体どういう人間であるのか」を知っていくっていう過程に、他者とコミュニケーションを取るっていう事の根源みたいな物を見る事が出来たと思うし、髭面で傭兵上がりのおじさんがそこでウンウン悩んでる姿を見ると、なんかちょっと感動するんですよね。

 

 

36位 ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅

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エディ・レッドメイン、やっぱりメチャメチャ好きですね。序盤からエディ・レッドメイン扮する主人公が一体どういう人間でどういう目的を持って動いているのか、ちょっとキャラクターが見えてこなかったりするんですけど、彼の持ってるカバンの中の動物たちとの触れ合いを描いた瞬間にこの映画は動き出すんですね。

 


それってやっぱり主人公が人間の世界ではなく、動物たちとの世界で生きている側の人間だからであるし、そういうのをエディ・レッドメインは表情一発で決めてるし、魅力ある動物たちを作り手側がしっかり描いているからで、ここがクリア出来ているだけでスクリーンの向こう側にある世界の現実感がグッと強くなってるんです。「ハリーポッターシリーズに結局最後まで残ったダイジェスト感もそんなに感じなかったし、5部作という事ですけど、かなり期待できるシリーズになりそうですよね。

 

 

 

35位 ザ・ウォーク

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コレ映画館で上映してる時ってたしか「ブリッジ・オブ・スパイスピルバーグと「白鯨との闘い」のロン・ハワードが同時に公開されてて、何気にメチャメチャ豪華だったんですよ。ロン・ハワード、「ラッシュ プライドと友情」とかメチャメチャ好きでしたね。
この映画っていい意味で「空っぽ」なんですよ。主人公が超高層ビルとビルの間に綱かけて渡るっていう過程で、綱渡りでの高所シーンが一番の見所ではあるんですけど、この映画の語り口が結構好きで。
この映画の序盤って、主人公が神の視点っぽい位置から物語を振り返っていくっていう導入なんですよね。だから現在から「過去」を振り返りながら物語を語るのかと思うんですけど、そうではなくて、この映画では主人公の青春は終えたけど、それでも彼の人生は続いていくんだ、っていう「未来」を語る映画だったっていうのが分かるんです。


何故そんな綱渡りなんて危ない事をするんだ!?っていう問いに、この映画は「だって渡りたいと思ったから…」しか答えを用意してないんですよ。俺が渡るべきだと思ったから、一目見た時にそう決めたから、っていう1ピコも具体的でない理由でどんどん物語は進むんですけど、そういう所って映画的にするにあたっては何かとそれっぽい理由を付けたがるじゃないですか。
でもそこを敢えて手を付けないでおくっていう所に、この映画の意味はあると思っていて。目的に向かう為に理由はあるんじゃなくて、理由が後から付いてくる目的があってもいいんじゃないかっていう、そういう青臭くて爽やかな映画にしているのが、作家性というか、やっぱり巨匠のお仕事だけあるなっていうか。綱渡りシーンだけの映画では全然なくて、凄く後味の良い爽やかな青春映画だったと思います。

 

 

34位 リリーのすべて

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美術も構図も俳優も全部が全部美しいんですよね、この映画。女性として生きたかった、女性として美しくありたかった主人公が目にしていた世界を描く為の細部までの徹底した拘りが感じられて、トム・フーパーっぽかったですね。レミゼっぽいっていうか。

 

 

33位 ブルックリン

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「田舎で暮らしてた女が都会で自分の場所を見つけて、良い男と出会えて、その後田舎に帰ったら綺麗になった自分に、昔憧れだった男が言い寄ってきて、そして…」っていう一見すると如何にも女が好きそうな映画に思えるんですけど、後味はかなり俺好みでした。


芋っぽかった女が都会から洗練されたオシャレウーマンになって帰ってきて地元の田舎で無双する感じとか、まあ見る人が見れば多分鼻に付くし描写多いし、結末も当たり前じゃバーカ!って感じなんですけど、思い返せば俺も大学通ってた時とか、正月に地元に帰ってきて「電車1時間に1本なの!?」とかわざわざ駅でデカイ声出してたりしてたんで、「これまで散々損な想いしてきたんだかたちょっとくらい楽しませてあげて…」って、少し庇いたくなったし。
ただ、この映画って単なる働く女性応援ラブコメみたいな話ではなく、女にとって「故郷を離れる」っていうのはどういう事なのかみたいな、凄く痛くてきつい話を描いていたりしてるんで、そういうパッと見の映画の佇まいだけで見てると、結構最後は心にズシンと来てしまう様な映画だったと思います。
主演のシアーシャ・ローナもアカデミー賞ノミネートだけあって凄く良かったですし。結構俺は前半の芋っぽい感じの方が好きだったりしますね。

 

 

32位 海よりもまだ深く

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テーマ自体は是枝監督がこれまでの作品で描いてる事と同じではあるんです。子どもの頃に想像していた「立派な大人」になれなかった大人の話と、その周囲の家族の話って感じで。キャストも常連が多いですし、息子夫婦が親の住まいに一泊するっていうのも「歩いても歩いても」そのまんまですしね。
ただ、「歩いても歩いても」では、主人公の亡くなった兄の影を踏まない様に踏まない様にって何とか気を使いながらも、ふとした会話の拍子にその影をいつの間にか踏んでいたみたいな、ちょっとしたサスペンス色のある物語だったんですけど、今作は結構コメディ色強い様な感じがしました。描いてる事は殆ど一緒のはずなんですけど。
樹木希林が「なんでこう、人生上手くいなかいかねえ…」みたいな事言いながら泣くシーンとか、なんかつい笑っちゃうんですよね。
人生思った様にいかんわな…みたいな所を、今作では主人公の情けなさをとことん描写する過程で描いてるんで、アプローチの仕方が全然違うっていう所もあるんですけど、テーマは同じなのにここまで印象が違うのかっていう驚きがありました。


好きなシーンもたくさんある映画で。台風の中で家族みんなで宝くじを拾い上げるシーンとかね。所謂「団地映画」なんですけど、今年見た団地が舞台の映画って本当に殺伐とした作品が多かったんですよ。「ディーパンの闘い」とか「狼たちの処刑台」とか。団地を舞台として描く時に選択するのが「貧困」とか「若者たちの理不尽な暴力」ではなく「人生の上手くいかなさ」だったるする所が、邦画だし、俺の邦画の好きな所だったりします。

 

 

31位 疑惑のチャンピオン

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世界で一番有名な自転車レースっていったらツール・ド・フランスだと思うし、10年は自転車に乗ってない俺でも知ってるんで多分そうなんだと思うんですけど、このツール・ド・フランスで前人未到の7連覇を達成した後にドーピング使用疑惑が持ち上がって、結局タイトルの剥奪と自転車レース界から永久追放されたランス・アームストロングっていう人がいて、この人の半生を追ったのがこの映画「疑惑のチャンピオン」です。


「疑惑」ってタイトルに書いてはあるんですけど、この映画ではアームストロングのドーピング摂取描写は映画始まって5分くらいでもうやっちゃってるんですね。
実際にアームストロング本人も後にテレビでドーピングの使用をインタビューで認めて(このシーンも映画で再現されてます)いるんで、彼は本当にドーピングを使用したのか?を追っていく映画ではないんです。どこも「疑惑」感は無くて。どちらかといえば、彼がドーピングに手を出してから自転車レース界のヒーローとなり、そこからの破滅までを淡々と描いていくっていう感じの映画で。


色んな語り口ができる強度を持った映画だと思うんですよね。
アームストロングが長年に渡るドーピングで自転車レースの価値を下げたっていう見方でこの映画を語る事も勿論出来るんですけど、アームストロングっていう最強の広告塔を守る為の協会による談合っていう所で「巨大すぎる力を持ってしまった競技者と協会との関係」っていう点で見る事も出来るし、ドーピングを告発した記者がドンドン業界内での立場を失っていく描写が入る事で、ジャーナリズムでさえも意のままに操れていた「スポーツとジャーナリズムとの関係」っていう点でとか、単純にアームストロングを告発するだけの映画にはなっていないんです。徹底した取材で、色んな人間の立場に立ってこの映画、この事件を語る事の出来る強度を持った映画になってると思います


そもそもアームストロング個人が一番の悪者っていう描き方にもしていないんですよ。
何が彼をそうさせたのか、彼は一体何を考えていたのかは、結構グレーな描写で進める事が多々あって。アームストロングがガン患者の病棟を訪れるシーンなんかは本当に優しさを持って患者と接している様に見えるし、ガン患者への寄付を自分から提案するシーンもあったりして。でも、かと思えばドーピング使用を告発された後の記者会見で「恵まれないガン患者の為に頑張ってレースしてきたのにその俺を訴えるのか!?」って、かなり唐突な所でガン患者の為っていう耳障りの良い言葉を言わせていたりとか。


彼がドーピングを使用していたのって、一番デカイ理由は勿論レースに勝つためじゃないですか。でも、「彼はレースでドーピングを使用した悪人だった」と表面だけを切り取って判断するのは簡単だけど、たったそれだけの事でこの事件を語り切るのは間違ってるんじゃないのか?っていうのを、一定の距離を保ちながら語ろうとしていると思うんですよね。どんな人間にも二面性はあるし、どんな人間の優しさも狡さも一定はしないっていう、実際の事件を題材にした映画ではあるんですけど、テーマは凄く普遍的な気がして。イヤ、マジで1位でもいいんですよ。34位とか35位でもこの辺のは全然好きだし全然面白かったし。本当にたまたまなんです、1位でもいいんです。

 

 

 

という事で、48位から31位まででした。一応、補足を入れておくと、「エージェント・ウルトラ」より上のヤツは全然面白かったし、好きな部類に入るんですよ。ただ、今年は面白い映画が本当に多くて、どうしてもこの順位にせざるを得なかったっていうか。20代後半の山暮らし非正規雇用オタクが何を言ってんだって感じではあるんですけど、とにかく「ザ・ウェイブ」とかがつまんなくてあの順位ってことは全然ないんです。「エージェント・ウルトラ」と「ゴースト・バスターズ」の間に若干開きがあって、「インデペンデンス・デイ リサージェンス」と「傷物語」の間に若干開きがあって、「僕だけがいない街」とワースト3の間には深い深い谷があるっていう、そういう感じなんです。本当に。

では続きはまた次回。俺が生きていればですけど。

 

  

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