2019年新作映画ベスト20 (1位から10位)

ということで、2019年の新作映画ベスト10です。なんでこんな事になってしまったのかはよく分かりません。まあでも2019年も2020年もほぼ一緒ですからね。すいませんでした。はてなブログの使い方も忘れちゃったよ。

 

 

11位から20位の記事です。

 

早速いきましょう。人はいつ死ぬか分かりませんからね。

 

10位 キングダム

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個人的には「キングダム」は2019年の映画を語る上では絶対に欠かせない作品でした。なんといっても、邦画にしてはかなりの予算をかけて、漫画原作で、アクション映画で、旬の若手俳優を揃えて、海外ロケに行って…ってひと昔前だったらコケる要素が全部揃ってる訳じゃないですか。でも今作は、ちゃんとお金をかけた分だけ、しっかり面白くなっていて、続編を匂わすような終わり方でも全く気にならない。コレは皮肉でもなんでもなく、”キングダムがちゃんと面白かった”という事実そのものが、原作ありきの作品が多いフォーマットの中でも、それでも日本映画が”面白いモノを作る”という所に向けて、着実に進歩できている何よりの証拠なんだと思います。

 

 

9位 アベンジャーズ/エンドゲーム

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『アベンジャーズ/エンドゲーム』 予告編 (2019年)

 

エンドゲームに関しては「ありがとう!」っていう気持ちしかない。今年のMCU作品だけ見ても、「キャプテン・マーベル」で更なる強キャラの掘り下げをしつつ、エンドゲームの次には「スパイダーマン ファー・フロム・ホーム」で膝カックンをしつつ新しい世代の台頭を予感させて次のフェーズにバトンを渡していく、っていう完璧すぎる流れ。

しかもそれが2019年内だけで完結されているんだから、本当に「…ありがとう!」という感じです。「俺たち観客の事をたくさん考えてくれてありがとう!」「映画館で絶対見たい作品をハイペースで作り続けてくれてありがとう!」「俺が生きてる時代にこの映画たちを映画館で見せてくれて本当にありがとう!」

 

 

8位 凪待ち

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主演の香取慎吾が素晴らしかったです。彼って個人的にテレビで見ていた時はいつもここではないどこかを見ている様な、ある種の空虚さを感じる人だったんですけど、それが今作の主人公である郁男とどこかマッチしていて、彼以外にこの映画の主演は無理だったなと鑑賞後は強く感じました。物語は郁男を中心とした人生に失敗した人間たちの陰惨な話ですが、舞台となる石巻市の震災後の様子を同時に描写することが「人生をもう一度やり直そうとしている人たち」と「震災から少しずつ立ち直ろうとしている街」を重ねて描写している点が印象的でした。

「人間は誰にだって人生をやり直すチャンスがある」と優しい視点を盛り込みつつ、同時に「人間はいつでもやり直しが利くからこそ、堕ちる所まで堕ちるのも容易にできてしまう」という真逆のメッセージが同時に内包されて映画でもあって、人間の再生をテーマに描きつつも、どことなくドライに終わっていく終盤の展開も好みでした。

 

 

7位 蜜蜂と遠雷

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映画『蜜蜂と遠雷』予告【10月4日(金)公開】

 

音楽映画で”音楽”だけにフォーカスを当てた映画って今まで見た事がなかったかもしれない。邦画で音楽映画って、3割音楽4割恋愛3割モラトリアムだったりするじゃないですか。この映画は本当に気持ちがいいくらい”音楽!”の一点突破で、『どうしたら良い演奏ができるのか?』っていう苦悩が真ん中にドスンとあり続けていて、意外にそういう日本映画って今まで見た事がなかっただけに新鮮でした。

”音楽”ともう一つ、今作の主題を挙げるとするなら、それは”死者”です。「なぜ人はいつか死んでしまうのに、誰かとコミュニケーションを保とうとするのか」というテーマもあって、松岡茉優が演じた主人公・亜夜がコンテストを通して、音楽を奏でる楽しさや、彼女自身から放たれる躍動感、そしてコレ以外には考えられない!と唸らされるほどにバッチリだったキャスト達との強烈なアンサンブルが、”死者への弔い”と共に”生を全うする事の素晴らしさ”という所に収束されていく終盤の展開は、非常に胸を打たれました。

楽曲的にも”このキャラクターならこういう曲を弾くだろう”という所で、作り手側が脚本を鑑みた弾き手を連れてきて演奏させたという拘りぶりもあり、音楽に素養のない俺でも物語にとにかく没頭してしまった1本でした。最後のコンテスト、みんな1位になってほしかったんだよな…キャラクターにとにかく感情移入してしまって「もうコンテストとか辞めてみんな1位でいいじゃん!もう解散しようよ!終わり!!!!」と叫びそうになってしまった。なんで順位とか付ける?そんなの不毛じゃね?

 

6位 スパイダーマン: スパイダーバース

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スパイダーマン、死す!『スパイダーマン:スパイダーバース』日本版予告

 

これからの3Dアニメは「スパイダーバース以前」と「スパイダーバース以降」で語られていきそうな、確実に歴史に残っていきそうな1本になりました。

細かいアニメーション技術に関しては分からないですけど、とにかく”今まで見たことのない映像”が2時間ずっと流れ続けてる映画で、今思い出しても「コレ見てるときは脳が幸せだったな…」って意識がフワッとしてしまう。2019年のベスト吹替映画も今作です。こういうレビューを書いていると段々ともう1回見たい欲が高まっていくものなんですけど、今スパイダーバースの予告編見たら超Blu-ray買いたくなってきた。処方箋とかでスパイダーバース出してくれないかな。ロキソニンとスパイダーバース7日分出しておきますね~みたいな感じ。それなら大抵の辛いことはなんとかなる気がする。OK!じゃあもう一度だけお薬手帳出しておくね!

 

5位 きみと、波にのれたら

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映画『きみと、波にのれたら』予告【6月21日(金)公開】

 

個人的な2019年ベストアニメは「きみと、波にのれたら」です。「スパイダーバース」が”見たことのない映像の連続”なら、「きみと、波にのれたら」は”生活の中にある身近な描写の連続”です。火や水といった自然描写、食事や調理といった生活描写のひとつひとつが繊細なアニメーションとして表現される事への感動は、今でも忘れる事ができません。

細田守監督が「我々が暮らす現実の中にあるリアリティを、アニメーションの中でも同じように感じることが『アニメーションでしか得られない感動』なんじゃないか」ということを言っているんですけど、正にこの映画は”アニメならではの”が詰まった1本になっています。特に主人公のひな子と港が出会い、お互いが惹かれながら、色んな所に2人で出かけ絆を深めていく…というシーンを主題歌と共に次々と見せていく一連の展開には本当に感動しました。何か特別な事件が起きる訳じゃない。人と人とが分かり合うだけのシーンの連続が何故ここまで感動的なのか。今作でも白眉となるシーンだと思います。

中盤以降はSF的な要素が組み込まれていくのですが、終盤に向かっていくとそれが物語のテンポを上げていく為に必要なシークエンスだったというのが分かる作りになっているのも憎い所です。タイトルの「波にのる」というのが、ひな子が”趣味のサーフィンで波に乗る”と”もう一度人生という波に立ち向かっていく”の二重の意味になっているのも凄く良かった。最終話のタイトルがアニメのタイトルその物になってるのが大好きなオタクに是非オススメしたいです。いろいろぶっ飛んだ設定を盛り込みながらも、採取的に”日々を丁寧に生きることって、楽しいよね”っていうすごく普遍的な所に着地する点は、湯浅監督作品全てに共通するポイントですよね。

この映画っていわゆる”案件”的な作品だと思うんですよ。主人公が声優初挑戦のEXILE TRIBEのメンバーだったり、主題歌もEXILE TRIBEの楽曲だし、主要キャストには一人も本職の声優はいないんです。それでも、見終わった後にはキャストも主題歌も大好きになってしまう映画って、本当に今まで出会ったことがない。職場の有線でこの主題歌が流れる度にかなり涙目になっていました。ただ一つ不満があるとすれば、この映画全然ウケなかったんですよ。その影響なのか、映像特典が「キャストが舞台になった喫茶店に行ってみました!」みたいなEXILEファンに向けたモノしかなくて、監督のインタビューとかメイキングは一切収録されていないんです。おいオタク、何とかしてくれ。

 

4位 ホテル・ムンバイ

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ポスターとか宣伝だと「一人の勇敢な人物が多くの人を救った感動ドラマ」みたいな感じですけど、この映画は”救えない”という事の焦点を絞った映画でした。『ザ・バニシング』とテーマは似ていて、悪意や暴力が突然、私たちの日常に現れたらどうするのか?という問いに、この映画は「何もできない」と答えているんですよね。明らかにあなたに殺意を持った人間が急に現れたらどうするのか?死ぬしかない。私には妻もいて子供もいて、仕事にも真面目に毎日励んでいたが銃を構えた見ず知らずの人間に撃たれたらどうなるのか?うーん、やっぱり死ぬしかない。俺らの生活のずっと近くに死はいつでもいる。

この映画ではどんな人間にもランダムに”死”が降りかかってきます。よい人間もわるい人間も、テロリストに見つかったら関係なく殺される。この映画では殺人の描写が”平等”なんですね。誰かが死ぬときに感動的な音楽が鳴ったりとか一切ない。この映画が素晴らしいのはそこで、日常はいついかなる時でも少しの悪意で壊される可能性があること、そして明らかな悪意に我々が立ち向かうことは難しい、っていう実は当たり前なことに、ちゃんと向き合ってると思うんですよね。

ただ俺の一番好きなシーンは、劇中で唯一希望を見出せる所で。中盤で主人公が「実はテロリストのスパイなんじゃないのか?」と疑われるシーンがあるんですが、彼は自身の生い立ちをすごく真摯に語って、最後にただただ「信じてください」と訴えるんです。仮初の日常の中に我々は生きているけど、でもちゃんと誰かと向き合うこと、対話することが、悪意を打ち砕く強烈な一手になりうるんじゃないのか?というメッセージのあるこのシーンが、本当にたまらなく好きです。

 

3位 バーニング 劇場版

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解釈が難しい映画ではあるんですが…メチャメチャ面白かったです。

生きることの辛さ、虚しさ、それでもそんな世の中で轢かれ合う主人公とヒロインがやっと都会の片隅で出会えた…と思いきや、そんな希望めいた光もほんの一瞬刺しただけで、あっという間に暗闇に堕ちてしまう…というのが大まかなストーリーですが、この感じも序盤でヒロインの部屋に主人公が初めて訪れた時の「日当たりの凄く悪い彼女の部屋」から始まる下りだけでこの映画の全体のトーンをすでに物語っています。このシーンに代表されるように、「バーニング 劇場版」ではあらゆるシーンが後々に繋がっていく展開の伏線であったり、導入であったりするのが本当に素晴らしい。編集がマジで神ががってます、この映画。主人公も最初の最初でタバコを吸うんですが、変にその”煙”をフォーカスしたりしますね。

社会的な弱者は強者に抗うことは一生許されない、というのがこの映画のテーマではありますが、個人的には”遺伝”というテーマも感じた所です。主人公の父が暴行罪で訴えられるシーンが所々で挟まれますが、父が持っていた”怒り”と、その怒りを誰かに暴力という形で実践してしまう”思慮のなさ”を受け継いでしまった事を主人公も自覚してしまう、というのがこの映画の肝だったと思います。その父の遺伝子さえも服と共に全部燃え尽きてしまえ…!という主人公の願いが爆発する最後の展開こそが、主導線的に語られていた「弱者は何があっても強者を上回ることは一生叶わない」というテーマに全て集約されていく。とてつもないラストシーンであり、とてつもない映画です。登場人物はほぼほぼ3人だけで進む映画なんですが、役者陣も本当に素晴らしいです。隙が全くない映画なんで、2時間半強あるのも本当に気にならなかった。

 

2位 ミスター・ガラス

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琥珀さん、やっぱ俺シャマラン好きだわ…って感じの1本です。「アンブレイカブル」「スプリット」からなる『シャマラン・ユニバース』3部作の完結が今作「ミスター・ガラス」です。

シャマランらしい”笑っていいのか怖がっていいのかよく分からんぞ!”みたいな独特な画作りは今作でも健在で、それだけで「あ~俺はシャマランの映画を観てる…」と嬉しくなってしまう。話としてはヒーロー映画(のような何か)という感じですが、彼の映画で一貫してるのは「登場人物たちが自身の役割に気付く、もしくは思い出す」という点です。それが今作においては、観客に矢印が向いてる傾向が強いです。「コレを見ているお前たち、俺の映画が好きっていう絶対にマジョリティなお前たち、このラストを見てどう思う?」っていう、強烈すぎるシャマランの自分語りが存分に入った投げかけに俺はもうクラックラしてしまった。

この映画の主人公は今作の中にはいないんですよ。見てる俺が主人公であり、そして敵はこれを見て気付いた俺を取り囲む世界なんだと。作るのに数十億とか普通にかかってる映画でも、こういうメチャメチャ個人的なことをやるのがシャマランなんだよな。最高の映画監督です。

 

1位 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

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今年はミスターガラスとどちらを1位にしようか迷ったんですが、こちらかなと。

個人的にはタランティーノは「過去」と「未来」の臨界点になる映画を撮り続けていると思っています。彼の映画が明らかに変わったように感じたのは「デス・プルーフ in グラインドハウス」で、この映画は前半がモノクロ、後半ではカラーっていうはっきりした作りをしているんですが、話自体は同じような話をしているんです。前半は過去にあったグラインドハウスっていう映画群にリスペクトを捧げただけのパートで、ぶっちゃけ退屈なんですよ。女が死ぬ所とおっぱいさえ出てれば金出すよ!っていうZ級映画がメチャメチャ作られた時代の映画を模範したような映画に、タランティーノっぽさがほんの1滴加えられただけの映画が「デス・プルーフ」の前半パート。でも、後半は完全にタランティーノの映画になってるんですね。で、しかも現代の観客が見てもちゃんと面白どころがハッキリ分かる映画にもなってる。俺はここにタランティーノが大物監督になるまでの人生を見たような気がするんです。ビデオ屋で世界中の名作映画からクソ映画まで見まくった映画オタクでしかなかった彼が、映画を撮るに当たって「面白くなかった映画」もちゃんと血肉としていて、そしてリスペクトを向けている。クソ映画はこの世に捨てるほどある、けど、その積み重ねが今俺たちが見ている超大作映画なんだと。物凄いざっくりした言い方ですけど”映画を観ること”の価値と尊さを、「デスプルーフ」で俺は見た気がするんです。

この映画のエンドロールって前半パートで死んだ女だったり、いかにもZ級映画でおっぱい出しながら死んだ感のある女優が次々と出てくるんですけど、俺ここで泣いちゃったんですよ。Z級映画の魂を受け継ぎつつも、これからも俺らしい映画を撮っていくぞ!みたいなタランティーノの宣言って感じがして。本当にこの人、映画が好きなんだな~っていうのがなんか泣けてきた。タランティーノって俺マジで熱い男だと思うんですよ。オシャレでバイオレントな映画を撮る監督っていうより、熱い男っていう印象が本当にある。

今作「ワンス・アポン~」は彼の集大成という感じがします。これまでは歴史上で実際にあった事件、対立、差別を元に描いた作品がここ近年は多かった。でも、今作は何が違うって「過去にあった悲惨な事件を”実名を出して描いている”」って所です。シャロン・テートという人が過去に本当に生きていて、何を楽しいと感じていたか、これからの人生で何を成し遂げようとしていたか。そして、ここにディカプリオとブラット・ピットのフィクションの人物を絡ませる事が、逆に「絶対に覆すことのできない過去」を描写している。この映画の結末に”傲慢すぎる”っていう声もチラホラ聞くんですけど、あれは未来をこれからも生きていくしかない俺たち観客に向けたエールなんですよ。過去に起きた出来事は変えられない、でも未来を生きていく俺たちなら、もっといい現実にしていく事はきっとできるじゃん、っていう火炎放射器だったんですよ。

 

ということで2019年の1位は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でした。まあ2020年も半分終わってるんですけど。

 

最近discordグループの「インターネットの悪いシネマ」で映画をよく見ているので、興味がある方は一緒に見ていきましょう。

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