裏ワザを掲載した分厚い雑誌の『脱衣麻雀などのちょっとエロいゲームの裏ワザ紹介欄に小さく小さく掲載されるゲーム内のエロCG』であった。

インターネットが各家庭に配備される様になる少し前。
携帯電話やスマホが1人1台持って当たり前になるもう少し前。
そんな時代に小学4年生で自慰を覚えた私にとって、人生という物は「おちんちんを大きくする為の媒体探し」とイコールだった。


私が住んでいた地域の男子は、とにかく性関連の知識に奥手なタチで、男同士のお喋りでも例え「おちんちん」「おっぱい」と口に出すなんて以ての外。性の情報を仕入れ教え合うなんて事も一切なく、何なら女体よりも男の裸の方に興味がある方が健全と考えられていた。
どうしてもコミュニケーションの中で性器を単語として伝えなければならなくなった時は「座布団にぼくの股間のエッフェル塔を擦り付けていたらなんだかネバネバした物が溢れてきて…」「昨日久しぶりに一緒にお風呂に入った姉の股間には日産スタジアムの芝生くらいに綺麗に整えられた繊細な柳の群れが…」などと比喩表現で何とかその場をやりくりしなければならなかった。ウソだ。


そんな中で、私の「おちんちんを大きくする為の3大生きる意義」、元い、「右脚の腱が伸びてギブスを足に嵌める程のケガをした小4の秋、ケガが段々と癒えギプスが取れる程に回復した頃、体育をサボれなくなるのがどうしてもイヤで仮病に次ぐ仮病で学校を休み始めて4日目、『話したい事があるから昼休みの時間だけでもいいから学校に来てくれ』と担任の木嶋先生から家に電話が入り、渋々久々に登校し保健室に呼び出されると木嶋先生から『昨日、月に1度のお楽しみ会で何のスポーツをするかの学級会で、【エスキがケガしてるのに俺たちだけ遊ぶなんていいのか?】【エスキくんも楽しめる様に教室の中で出来る遊びをやろうよ】と意見が沢山出た。… 実はお母さんから、キミのケガは後は気持ちの問題だという風に聞いている。だが、今すぐに元気になれとは言わない。私も大学の時に大ケガをした事があるから、怖いという気持ちはよく分かる。気が向いたらでいいから学校に1度来てみてくれ、みんな待ってるから』と聞かされ、感動し泣きそうになった私。その後久々に学校に行き、お楽しみ会で決まった百人一首では1枚も取れず最下位タイだったけれど、心は暖かい物で溢れた。そして時は流れ半年後。私と母と木嶋先生の3者面談で『で、それでエスキくん泣きそうになってるンスよ!涙目で!そんな子供とは思わなくてビックリしちゃって!』と私のいる前で保健室での私の様子を事細かに振り返る木嶋先生と母の大爆笑を15分聞き続けて死にたくなっても、何とか気力をくれたおちんちんを膨らませてくれる3大生きる意義」と言えば(話の脱線に満足させてもらったので本筋に戻りたいと思います、ありがとうございました)『父の本棚から盗み見たBUBUKA』と『録画した【クイズ世界はshow-bye show-bye】という番組のヌードモデルが誰か当てるクイズで5秒だけ画面に大写しになるバスト85のバーバラ・モアちゃんの裸体』。そしてもう一つはその年代に発売されたゲームソフトの裏ワザを掲載した分厚い雑誌の『脱衣麻雀などのちょっとエロいゲームの裏ワザ紹介欄に小さく小さく掲載されるゲーム内のエロCG』であった。


最初は純粋に裏ワザを知りたいが為に友達の山口くんから借りたこの裏ワザ大辞典なる雑誌、今となっては雑誌の正式な名前も発行元も全く覚えておらず、記憶にあるのは「広辞苑ほどの分厚さであったこと」と「プレステよりもセガサターンドリームキャストのゲームの方がエロCG掲載率が高かったこと」くらいなのだが、このエロCGは私にとっては鉄砲伝来、黒船到来、キリンの本絞りグレープフルーツ味を始めて飲んだ時、パーマというのは大人になれば勝手かかる物ではないと分かってしまった時ほどの衝撃だった。


なんせ今までの私の主なエロ備品といえば、その頃仕入れたBUBUKAはBUBUKAでも、父の趣味だった盗撮モノが特集だった号のイマイチBUBUKAであったし、バーバラ・モアちゃんの5秒間おっぱい映像も、停止ボタンのタイミングを一瞬でも間違えば、映像終了と同時に編集で差し入れられるのは回答者席に座る山城新伍清水圭のニヤケ顔であったので、彼らの笑顔と私の大きくなったおちんちんとがご対面する事も1度や2度では無かった。


何よりも大きかったのは、所謂『エロCG』というのを見たのが、それが始めてだったという事だ。同じ2次元という括りであれば『エロ漫画』はこれまた父から無断で拝借し、目にした事はあったが、到底小学4年生が受け入れられる様な代物では無かった。(女とセックスしたら実は相手は宇宙人でおちんちんを通して体内に卵を植え付けられ、人間には有害なガスを排出する植物になる男の話がアンソロジーとして何話も掲載された漫画や、男と女とゲイの3Pの漫画でどうやって勃起しろと言うんだ、今でも無理だ)


しかし、いくらなんでも脱衣麻雀の相手が「射精されると目玉が7つになったり乳房の数が奇数になる女」や「35cmのおちんちんを持つ関西弁のゲイ」では商売にならない事はセガも理解していた様で、しっかりと恥じらいを持った女のエロCGの掲載が多く、その点でも小学4年生の私にでも受け入れられやすい傾向にあった。青髪のセーラー服を着た女子高生と思わしき乙女が顔を赤らめながら半裸でベッドに横たわり、シーツの間からチラリと見える桜色の乳首画像が、私に「オヤ?2次元でも海綿体には血液を配給出来るぞ?」と、新たなチャンネルを開設してくれたのだ。


自慰には細心の注意を払った。なんせコレは山口くんから借りた物なのだ。「友達から借りた裏ワザの本になんか女の変な絵が書いてあって気持ち悪かった!」のスタンスでいなければ、私には精神異常者のレッテルが貼られてしまう。通信簿には先生の一言として「身体と心の成長のバランスが取れていない様です」と書かれ、母に半年はネタにされてしまう。慎重にならざるを得ない。
いざ自慰といっても、雑誌は広辞苑程の分厚さだから、手で押さえていないと勝手に閉じてしまうし、かといって過度に力をかけて折り目でもついた日には、山口くんに本を返した次の日の学校の給食では「アイツご飯の真ん中に箸を立てて乳首に見立てるぞ」と教室中がザワザワしてしまう。
結局、何とか遊戯王カードを雑誌の間に挟み、そこから覗き込む様な形で薄暗い中でのエロCG鑑賞を何とか成功させた訳だが、殆ど陰になって見えないはずのピンク色の乳首が、私の想像力も相まって、よりピンク色に見えるという事象が発生したし、「覗き込む」という行為がなんだか普通に見るよりずっと悪い事をしている様で、より興奮した事を覚えている。


後日、本を山口くんに返却し、次の日のドキドキしながら登校したが、スケベ椅子で授業を受けさせられたという事も無く、無事私は今に繋がる性癖の1つを獲得した。唯一の心残りは山口くんから「貸した裏ワザの本に【ヂェミナイ・エルフ】が挟まってたけど何?」と聞かれた事だ。「肌が見えている女のカードを所持している」という事でイエローカードが出てもおかしくない事案だが、「…強いし2人だから」と答えると「…そうか」と納得してくれた。意味は今も分かってない。