12/14 ドクター・スリープ

最近映画へのモチベーションが下がりつつあるが(近所の映画館まで片道40分なので)今月初の映画館。「ドクター・スリープ」。

 

www.youtube.com

 

最初の1時間くらいが本当に好きだった。

主人公のダニーが前作「シャイニング」での出来事を通して得てしまったトラウマに人生をどの様に蝕まれ、そしてどの様にしてその傷を癒していくかの過程の描写が本当に素晴らしかった。それは「シャイニング」という強烈なクラシック映画があったからこそ、より効果的であった作劇だったと思うと同時に、この主人公の傷を癒していく過程があくまで俺たち一般社会に生きている人間の生活圏内できっと出会う事のできる”誰かの優しさ"で成り立っていた事が凄く良かった。例え常人には理解できない様な出来事に襲われても、それは誰かと関わりを持ったり、真っ当な職に就いたり、社会に溶け込むことが出来るのなら、それは時間がきっと解決してくれるという優しい視線が込められいて、正直「コレ以上描く事があるのか!?」と思うくらいに”シャイニングの続編”としては申し分ない出来だったと思う。特に主人公、ダニーがセラピーで参加者の前に立って父親への想いを語る場面は、この映画の一番の見所といって過言ではない。

 

また同時に、この映画を特別なものにしているのは、ダニーの心が回復していく様と同時進行で描かれていく”悍ましい化け物たち”の暗躍だ。ダニーが人間らしく生きていこうと奮闘するとの同時に、この世の者ではない”何か”たちが子供たちを自身のコミュニティの存続のために食い物にしていく様子が非常に現代的なグラフィカルな描写で描かれていく。個人的にはここに今作の”シャイニングを上回ろうとする気概”を感じた。シャイニングがジャンプカットを多用した『視覚的な異質さ』が肝とするなら、ドクタースリープは生者の生活と死者の生活を並列に見せる事による『編集的な異質さ』を肝とした映画だと思う。

 

ただ、やはりダニーのトラウマが解消されて以降のパートになるとかなり映画のトーンが変わってしまう印象を受けた。単純な超能力バトルの様な体裁になってしまうと、どうしても”その力は何ができて何ができないの?”という所が気になってしまう。シャイニングという力が前作からある種の神秘的な魅力を秘めていたからこそ、今作では力その物にスポットライトを当てすぎな部分はあった様に感じた。ストーリーの着地である「特別な力を持っていてもそれを隠すことはない」というメッセージにもかなり不満があって、今作では”シャイニング”に代表されるような特別な能力や、この世の本当の仕組みを知ってしまった人間は全員劇中で命を落としてしまった。2時間半以上かけた割には、”シャイニング”を感知できない人間は捕食される側でしかないという以上の描き方が今作では出来ていないと思う。序盤が人間的な成長を遂げていくダニーの話だった分、特別な人間でないとこの世で生きていくことは出来ないのか?というヤダ味を感じてしまったのは事実で、洋館に入ってからの展開も、正直前作ファンへのサービスシーン以上の物は感じなかった。ダニーとある人物の会合も、序盤のセラピーでの素晴らしい描写を経ての事なので、父へのトラウマをある程度解消させてからまた父と向き合う描写を見せられても、正直乗り切れない所が多々あった。(シーン自体は素晴らしかった) 

 

全面的に最高の映画!!とは言えないけれど、序盤は今年ベストに上げてもいいくらい良かったし、残りの1時間半は洋館に入ってからのサービスとびっくり箱の開封の為の下準備と考えればまあ良かったのかなという感じ。

 

シャイニング (字幕版)

シャイニング (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video