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埼玉の深谷という土地で大学時代の4年間を過ごした。

水風呂が好きだ。

入った直後の刺す様な痛みが、段々と和らいでいくあの感覚が好きだ。冷水と言ってもいいくらいの温度の浴槽に、自分が順応していくのが、身体の力強さを感じさせる。水風呂に入る度に私は自身の身体に驚かされているのだ。「こんな身体でも、ちゃんと生きている」と。私は当たり前のことを水風呂に入る度に再認識している。

 

私は大学時代の4年間を埼玉の深谷という土地で過ごした。大学からは若干距離はあったが、大学近辺よりも栄えていたのと、家賃が比較的安かったのが理由だ。1kユニットバス6畳ロフト付きで29000円。ただ、テーブルの上に果実系のチューハイを洗わずに置きっぱなしにして寝ると翌朝アリがたかっているのと、朝5時になると隣の部屋に住むおじいさんが大音量でZARDのベストアルバムを日中流し続けるのには頭を抱えたが、何とか卒業まで暮らし続けた。


この深谷という土地は、あの猛暑で有名な熊谷のお隣に位置する、何の変哲もない地方都市である。電車を使えば都内まで1時間ほどで到着するし、少し北に行けば高崎、少し南に行けば大宮と、都内ほどでは無いにしろ、比較的大きな街にも行きやすく、実際暮らしやすい土地であった

それから5年経ほど経った今、私が住むのは豪雪地帯で有名な上越である。

深谷では10分に1本走っていた電車が、上越では1時間に1本になる

深谷雪が降ればニュースになるが、上越では降雪は毎年の事なので「除雪作業中の老人が凍死!」でやっとニュースになる

深谷徒歩数分で見る事が出来た映画が、上越では車で2時間かけて県を跨いで長野の映画館まで出向く事もざらにある

言うまでもなく、深谷、熊谷と比べれば不便である。不便極まりない。何百年前かは知らないが、何故こんな土地に「住む〜!!」となったのか理解できない。


だが、問題は夏場だ。熊谷が連日40℃まで気温が上がれば、勿論隣の街でも40℃近くまで気温は上がる。猛暑の中で、大学やアルバイト先へ向かう為、駅まで自転車で移動するのは本当に辛かった。上越の友達が夏場に遊びに来たときの第一声は、今でも覚えている。「痛い!」だった。「熱い!」ではなかった。

 

さて、上越である。

深谷上越は、気候的にも、他都市へのアクセスでも、交通機関の充実ぶりでも、色々と真逆にあると言っていいと思う。しかし不思議な物で、人間には「慣れ」という物がある。住めば都とはよく言った物で、実際深谷に住み始めて2年くらい経つと、猛暑も自分なりの対処方法が何となく分かって、そんなに気にならなくなったりする。

ただそうなると、年末に上越に帰省した時が辛くなる。それまで十何年も暮らしてきたはずなのに「こんなに寒かったのか!?」「こんなに雪が降って今までどうやって暮らしてきたんだ!?」と、これまでの生活が思い出せなくなっていたりする。「慣れ」は記憶だけでなく、感覚まで変えてしまう。

 

大学を卒業し、地元である上越に帰ってきて、もう5年経った。もう5年も住めばすっかり慣れた…とまでは言わないが、冬の寒さに改めて驚く、という事は流石に無くなった。電車が1時間に1本通るのも普通の事になった。1mの降雪も普通の事になった。映画館までガソリン代1000円かかるのも普通の事になった。私は水風呂が好きだ。好きだが、多分「冷たさ」「気持ちよさ」よりも、「冷水に急速に慣れてしまった自分」がおかしくて好きなのだ。

私は上越に暮らしている。それがもう普通の事になっている。それが良い事なのかどうかは知らないし、分からない。要は「慣れって怖いよね」っていう事だ、多分