じゃあ200円引きは無しで

仕事柄、ゲームを査定する機会が多いので、お客さんと買い取り価格についての交渉になる事も多々ある。

買い取る側としては、例えば説明書が無かったり、外箱が無かったりする場合では「説明書欠品なので2割引で買い取る」だとか「この場合は買い取り不可でお返し」とかで『欠品』に関してはある程度決まり事もあるのだが、一番査定時に困るのが「気になる人は気になるかもしれない」レベルの『多少の傷』という物だ。

金額を決める際も「ディスクの裏に3cmの傷が4つ以上あると500円引き」とか「説明書の折り目がページ上に45°以上の鈍角でページの5割以上を占める形で付いていたら300円引き」とかそんな細かい規定がある訳ではなく、「大体の感じで傷多い」「大体の感じで傷少ない」くらいで値引き額を決めている所もあるから(文字にして見ると物凄い馬鹿っぽいな、『大体の感じで傷多い』って)「なんでコレが500円引きになるのか説明してみろ!」と言われたら、少し困ってしまう。比較対象になる物が手元にある場合なら良いのだが、それもない時は「経験に乗っ取ってっていうか、もう何と無くです!!」と言うしか無い。

500円も1000円もそれで変わってしまう訳では無いのだが、査定する人間の匙加減ひとつで100円程度の誤差はどうしても産まれてしまう。大抵のお客さんは多分そこら辺も理解して最初に提示した価格で納得してくれるのだが「何とかなりませんか」というお客さんは、やはり必ずいる。


思い入れがあったりするゲームなのかもしれないが、買い取る方も全て商品はレジに通してデータに記憶されてしまう訳なので「何とかなりませんか」に答える事はなかなか難しくなってしまう。

前に一度「こんにちは公務員です、好きな食べ物はミカンです 今日も寒くて大変ですね」という様な風貌の人が買い取り希望でゲームを持ってきて「傷があるので200円引きです」と言った途端に「ふざけるな」と握りこぶしを作られたのが未だにトラウマだ。

「研磨機にかけても傷が取れない可能性もありますので、その辺のリスクも考えまして…」と言っても「俺には分からない」「よくここに買い物に来てるのに何て仕打ちだ」「もう二度と来ないぞ!」でお客さんの連れの女性も「もう止めなよ…」と止めるくらいに怒っていた。困って店長の方を向いたら「あっじゃあ200円引きは無しで」と笑顔で言われた時には「Twitterに書こう」以外の感情が働かなかった。酷い世の中になってしまった。


個人的に一番嫌なのは如何にも「好きなアーティストは湘南乃風です」という様な風貌の人が傷だらけのゲームを持ってきた時。「査定するので金額が出るまでお待ち下さい…」と言った後の5分間で何度も何度も「自分自身との戦い」を強いられる。

「怖い」「まず怖い」「何よりも怖い」「こんなに傷だらけじゃ多分研磨機にかけても傷は取れない」「買い取れないと言うしか無い」「公務員があんなに怒ったんだから殺人沙汰は間逃れない」「あの懐から次の瞬間、バタフライナイフが出てくるんだ」「さようなら家族、さようなら世界、パパママ産んでくれてアリガトウ キョウモキレイナソラ」「隙が出きたらとりあえずTwitterにコレ書こう」と自分との戦いを終え、湘南乃風さんに買い取れない事を伝えると「あっ分かりました。その変わりコレ下さい」とカウンターにコトリと「どきどき魔女神判2」が置かれた時には、何だか自分の中の平衡感覚が失われた様にも思えた。あと「Twitterにコレ書こう」も。



で、今。全然関係ないけど、さっきうまい棒を久々に食った。で、その時の感想が「おいしい!」とか「しょっぱい!」とか「『美味い棒』なんて卑猥!」とかでは無く「コレ、重量は6gなのか…6gで10円…同じ値段だったらそこそこ良い豚肉が買えるのでは?私は損をしているのでは?」だった。

勢いで5個食ったから30gで50円。100gでは大体170円前後。「スッカスカで只々味が濃いだけの棒よりずっと良い買い物が出来たのかもしれない」とまで考えた時に「自分はお菓子を美味しく食べることも出来ないのか?もう5個食い終わってる癖にここに来て自分の選択を後悔するのか?」と内なる私が心の中で囁いた。今ならあの怖い公務員の気持ちも少し分かる気がする。200円引きを断固として受け入れてくれなかったのも「200円だったらスーパーで良いハムが買える!」くらいに思ったのかもしれない。


あとうまい棒の「めんたい味」とか「チキンカレー味」とか、気持ちは分かるがアレは全部「うまい棒味」で一括りにしてしまっていいと思う。全部とりあえず塩っぱいし。美味いけど。…なんでうまい棒の話になったんだっけ?



追記:あっ因みに「どきどき魔女神判2」というのはこういうゲームです。




良い時代になりました。