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キネマ旬報主催の授賞式に招待されたので、ついでに都内で映画を何本か見てきました。映画を見て日高屋で飯を食って駿河屋で中古エロ同人を買ってたら東京遠征が一瞬で終わった。秋葉原にホテルを取ったんですけど、歩行者天国の日だったみたいでとんでもない人の山でメチャメチャビックリしました。どこからあんなに大量のヒトが排出されてんですか?歩行者天国の端と端を往復する事で給与を貰っている人間が大量に配置されていたとしか思えない。

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ポスター画像

 

監督 齊藤工

原作 はしもとこうじ

脚本 西条みつとし

製作 板東浩二
   富永正人

キャスト 高橋一生
     リリーフランキー
     斎藤工
     神野三鈴

 制作国 日本

上映時間 70分

 

予告編です

 

85点

 

見に行ったのが2月11日だったと思うんですけど、その時点では今作ってシネマート新宿っていう映画館だけでの上映、しかも1日1回の限定上映だったんでかなり条件としては厳しかったんですけど、東京に行くに当たっては絶対に見たい1本でした。一応地元でも公開の予定は出てたんですがそれも5月とかで。

上映開始時間の1時間半前には着いてチケットを買ったんですけど、それでも席がいっぱいで立ち見での鑑賞でした。立ち見で映画見るのってマジで初めてで、最初は「言っても立たされて映画見るなんて事ないでしょ」つってたんですよ。その1時間半後には通路に立って予告編見てる俺がいました。マジで立ち見ってヤツじゃん。コレ。

 

良い感じにこじんまりした映画館でした

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俳優の斎藤工、初長編監督作になります。短編映画は何本か撮られている様ですが、監督作は今作が初鑑賞。斎藤工は結構好きなんですけど、入り口がWOWOWで無料放映されてる「映画工房」っていう番組なんですよ。毎週録画して見てるんで、俳優としてよりも映画工房の斎藤工っていう方が俺の中では強かったりしてるんですけど。俳優陣も高橋一生リリーフランキー松岡茉優と凄く豪華で、見る前からかなり期待していた作品でした。

コレ見る為に東京来たような所もあったので、その分ハードルも心のどこかで上がっていたのかもしれなかったんですが、個人的には今年見た映画の中でもトップクラスに心に残る作品になりました。

 

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70分の短い映画なんですが、主に前編と後編に分かれている作品でもあります。前編が主に高橋一生斎藤工扮する兄弟の少年期の話と、彼ら兄弟が大人になってからの話。後編がその父の葬式での兄弟と、生前に父との交流があった参列者との出会い、という構成になっています。

予告編を見てもらっても分かると思うんですが、この前編と後編ってテイストが180度違っているんですよね。前編はとにかく暗くて、サスペンス風。特に暗闇の撮り方にそれが表れていて、明るい所と暗い所をパッキリと二分させた様な見せ方をしている。つまり暗い所は吸い込まれそうになるくらい、どこまでもどこまでも暗い。で、返って後編はバラエティ番組を見てるのかってくらいに画面全体が明るい。葬儀場自体が白を基調としたセットになっているのもあるし、俳優陣に全部おまかせした一発芸的な「父とのお別れの言葉」も、佐藤二郎を筆頭にみんなが好き勝手にやって、半ばお祭りの様な感じもしていて。暗く重く統制された前編と、縛りの一切ない自由な後編という2部構成になっているという点が、今作の一番の特徴だと思います。

 

展示されていた俳優陣の衣装です。タイヤの跡…

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「自由」で「俳優陣におまかせ」で「言葉尻とか面白い顔とかするのが楽しい」っていうと、去年あった銀魂とかがある訳じゃないですか。やっぱりそういう、所謂"緩い感じ"っていうのって諸刃の剣でもあると思っていて、凄くテレビ的な所があると思うんですよ。家でテレビでCM挟みながらの30分ないし60分番組では持つ様なアレでも、沢山の人間と120分の時間を共有しながら見るっていう環境になると、個人的にはそういうテイストはマジで辛くて。福田雄一的な映像コンテンツって、こじんまりとした所だからこそ生きるんじゃないかと思ってもいるんです。(っていうか俺が段々見てて恥ずかしくなってくるから無理)

 

この作品でも、後編はそういう感じは強くて、佐藤二郎が色んな作品媒体で出てくる佐藤二郎そのままで出てきたりとかもあるんですが、俺がこの作品だけは特別だと思うのが、その自由さ、緩さが、作品のテーマとちゃんと繋がってるっていう所にあるんです。

この作品の前編では、主人公である兄弟の目線から、父という人物がどんなに人でなしで「生きる価値の無い人間だったのか」というのを見せていくんですが、さっき書いた様に、後編のテイストは180度違う訳です。つまり「彼はどんなに生きる価値のある大切な人だったのか」というのを、参列者の人間がアドリブで面白おかしく支離滅裂に語っていく。兄弟にとって、父という人間は一体どういう人物であったのかが、この対比があるからこそ「分からなくなる」というのが、今作の肝なんじゃないかなと思います。

 

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人は一面性だけじゃ語れないし分からない、というのは個人的には凄く共感できる部分でもあって。自分の話になっちゃいますけど、俺もこの映画と同じ様に、父とはもう高校3年生だった時以来会ってもないんですよ。当時は色々考える所もありましたけど、大人になった今、確かに愛情を向けられていた瞬間とか思い出とかっていうのは俺の中にある事はあって。だからって全部を許せるとか、父に共感できるみたいな部分は全然無いんですけど、それでも肯定できる部分がゼロではないから、色んな感情が無いまぜになった様な感じもある。そういう踏ん切りがつかないし付けようともしない、みたいな家庭環境が近くにあった俺には、この映画の「分からない」っていう目線、距離感が凄くしっくり来たんです。

 

普通の映画って、例えばある人物がいてその人物に秘密があるとしたら、その秘密を段々と解き明かしていって、最後には分かりやすく普遍的なテーマがそこにあるっていう感じで終わるじゃないですか。そういう映画も勿論好きなんですけど、「blank13」は逆なんです。

ある人物がいて、その人物の人となりが段々と解き明かされていくんだけど、終わった後は、もっと分からなくなっている。一見すると全然映画的な作劇には思えないんですけど、俺はこの映画から生きた人間の感情を感じたし、10年近く会っていないし顔も声ももう殆ど覚えていないんだけど、それでも父の輪郭を感じたりもしました。映画的ではない人間的な作劇が、逆に映画のダイナミズムを感じるというか。俺だって訳分からないんだから黙れ。

 

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見た人全員に刺さる映画ではないし、後編の展開に鼻白む人もいると思うんですけど、俺はちゃんとテーマを伝える上で意味のある作劇だったと思うし。何も考えずに見ても葬儀場の色々は普通に笑えて面白い所でもあるので。

イヤ、もう今年邦画ベスト級が来たんじゃないですかね。それくらいに良い映画だったと思います。DVDにはもしかしたらならない可能性メチャメチャある作品っぽいので、近隣で上映があれば、マジでオススメしたい1本です。カーテンの向こう側で足とちょっとした風だけで父の最後を見せるシーンとか、ハッとする場面も沢山あるので。

 

 

 職場のレンタルショップで未だに人気です。

虎影

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