2015年に見た新作映画でTOP10を決めようじゃないかと

2015年に見た新作映画でTOP10を決めようじゃないかと。そういう記事です。今年の新作映画の鑑賞本数は映画館での鑑賞が34本、レンタルでの鑑賞が14本、計48本でした。

 

 

出来れば全部映画館で鑑賞したかったんですが、こちとら外を歩いているとお巡りさんに「さっき近隣の住民から『外を歩いている人間がいる』という通報があったんだけど」と声をかけられるレベルの田舎なので、何本かはレンタルで自宅での鑑賞となっていますが、最低賃金731円住民にお情けをという事で、許して頂きたいです、スイマセン。

 

 

 

では、早速10位から。 

 

 

10位 薄氷の殺人

 

冬の中国、寂れた町、5年越しのバラバラ殺人、ノワール、ハードボイルドって言ったら10人いたら2人くらいにはメチャクチャ引っかかると思うんですけど、どうですか?(8人はお腹痛くなっちゃったのかな?)

 

撮り方が凄く独特なんですよ。登場人物の誰の感情にも入り込まない様に徹底している感じがあって、そこに閑散とした冬の町並みをダラッと見せていく点とか、ブレードランナーを少し連想しました。「こんな未来無い未来」の感じっていうか。古いんだか新しいんだか分からない感じっていうか。決してSFでは無いんですけど無国籍感があって、唯一無二な雰囲気のある作品になっています。

 

雰囲気映画の様な顔をしながら、ミステリーとしても面白い作品になっていると思います。大好きなのがラストシーンのある展開。この映画の原題は「白日焰火」、つまり真昼の花火っていう意味なんですが、だからこそラストシーンでのアレに意味があるのに、「薄氷の殺人」っていう邦題はもう何の意味も無くて本当最悪、核廃棄物の五重塔なので、まだ見ていない方には「薄氷の殺人」っていう単語は忘れて頂たいです。忘れるなんて無理って方は何とかして脳髄の機能をチョイと弄って上映時間の110分だけ右脳の働きを停止させてもらって下さい。思考っていう機能が失われた状態で見てもこの映画の面白さは損なわれる事は無いので。

 

 

 


映画『薄氷の殺人』予告編

 

 

 9位 セッション

セッション(字幕版)

セッション(字幕版)

 

 

9位なんですけど、個人的にこの9位ってのは今年は凄く大きい存在でした。
『セッションのラスト10分のドンドンダンダンを超えるエモーショナルな部分があったのか?』っていうのがこのランキングを作る上で一つの基準になっていた気がします。それほどセッションは2015年の重要な作品で、逆に言えばこれよりランキングが上の作品は本当に良かったっていう事なんですけど。あと個人的な話だと、小学生の頃までトロンボーン吹いてたんですよ、俺。吹奏楽部に入ってて。で、そこの顧問が女の人だったんですけど凄く厳しい人で、ほっぺのホクロから完全に毛が生えてるんですけど凄く厳しい人で、その頃の辛かった日々を思い出したっていうのもあります。
 
 
 
J・K・シモンズが演じた音楽講師フレッチャーがやっぱりメチャクチャ良くて(映画館からの帰り道でずっと「ファッキンフレッチャー!ファック!!」の言い方が好き過ぎてずっと真似してました)TSUTAYAで流れているPVが目に入る度にニヤニヤしてしまうんですけど、「人の皮を被った何か」と主人公がいつの間にか共鳴し、最後には同化してしまうっていう、その過程の描き方も良かったです。
音楽映画を見に行くつもりで行かない方がいい映画だと思いました。「上手に演奏できました!」「練習の甲斐がありました!」の様な音楽的なカタルシスっていうかは、フレッチャーもっと来い!フレッチャー!っていう、スポ根モノとして見に行った方がしっくりくるんだろうと思います。
 
 
少しずつ少しずつ主人公が世俗的な考えから乖離していくのを見せて見せて、で、最後のシーン。ザッケローニに似た主人公のお父さんが(最初見たとき本当にザッケローニなんじゃないかって疑ったくらい似てました)幕間から演奏中の主人公を覗き見た時に同じ人間とは思えない程のとんでもないパフォーマンスに「えっ」ってドン引きするじゃないですか。アレで「主人公にとっての『父親』が入れ替わった瞬間」をラストシーンの演奏を経て、フレッチャーと主人公のニヤッとした笑顔で終わらせる。コレ完全なNTRですからね。【信じて音楽学校に送らせた息子が鬼教官の壮絶な扱きにド嵌りして…】っていう。DMM.R18で1800円くらいで販売してそう。イヤ、好きですけどね、NTR。橘さん家の男性事情最高。
 
 


映画『セッション』本予告

 

 

 

8位 海街diary

海街diary

海街diary

 

 

是枝裕和監督は多分一番好きな日本人の映画監督なんですけど、コレは是枝監督でも間違いなくベストの1本です。「そして父になる」よりも上だと思います。
主演の4人が本当に良いです。是枝監督なので勿論見るんですけど、主演が綾瀬はるか長澤まさみってちょっと「え!?」ってなったんですよ。完全に杞憂でした。綾瀬はるかってメチャクチャいいですね。いい。ちょっと顎出てる人じゃないですか。「分かる!」ってなりました。あんなに真面目で面倒な生き方してたらちょっとくらい顎出ますよ。それは。分かるよ。
 
 
この映画は長澤まさみのセックスから始まって、4姉妹が喪服で海岸を歩いて終わるんです。こういう生と死の対比みたいな様式美があるだけで俺の口からはパチンコ玉メチャクチャ出るんですけど、そんな生と死のすれ違いっていうかね。人と人との関わり合いとか、季節の移り行きとか、春に自転車で桜並木を駆け下りたとか、夏に漁船に乗せてもらって花火見たとか、「一瞬一瞬の出来事が誰かの人格を形作っていく」という、その過程をこの映画で見た気がします。自分のいるべき場所は何処なのか、自分のすべき事は何なのか。それらが積み重なって積み重なって、人生っていう物に彩りが出てくるんだろうな…っていう。普段生活してて心にも思わない事で感傷的にもなりますよ、それは。映画最高。
 
 
特に序盤の15分、3姉妹が4姉妹になるまでのシーン、ここはこれまで見た映画の中で一番好きな序盤15分かもしれないです。「何か大きな物がいつか俺を迎えに来てくれるんじゃないか…」って信じながら山で暮らして27年経つんで。
理想的な「俺が選ばれた!」なんですよ。「あ、でも、すぐに答えなくてもいいのよ。ゆっくり考えて、もし良ければ…」って綾瀬はるか広瀬すずに電車から語りかけるとこで「…行きます!」って言いましたもん。俺。俺が。なんかスクリーンの方からも広瀬ずすの声が聞こえた気がしたんですけど、俺の「行きます!」で聞こえなかったですから。
俺は、俺たちが、広瀬すずなのだと。そして綾瀬はるかであり、是枝裕和なのだと。そういう映画です。
 
 


海街diary予告篇

 

 

7位 インサイド・ヘッド 

 
 この世の全ての生物の頭の中には感情を司るキャラクターがいて、それらと、それらの主である11歳の女の子が右往左往する話です。
 
 
感情その物がテーマっていうと、何とも地味な話になりそうなんですけど、【11歳の女の子の頭の中】っていうオタクは永遠に足を踏み入れる事のない空間でのドタバタと感情ギャグが(感情ギャグ?)最高でした。ピクサーヤバい。子どもも大人も楽しめる!みたいな謳い文句って、よく耳にするじゃないですか。もうピクサーの映画の広告にしか使っちゃいけない事にしませんか?ピクサーは早く特許取った方がいいんじゃないですか。「(せーの)ピクサー最高~!!」って劇場内の親子の観客が一斉に叫んで声優陣が手を振るっていうCMの特許。
 
 
子どもが見れば「感情には色んな向き合い方がある」っていうメッセージにもなれば、もう大人になった我々は何となくそれは理解して自分の物にしてるんですけど、それをこの映画で再認識すると共に「成長と共にいつの間にか忘れていた思い出」にも思いを馳せちゃうっていう。誰がどう見ても得!っていう感じです。ピクサーヤバい。ピクサーは早く特許取った方がいいですよ。「親子による感情と思い出の共有」っていう体験の特許。ピクサーが俺たちの記憶や体験からも金を吸い上げていくっていう未来。ピクサーヤバい。
 
 
  オリジナルキャラクターを自分の頭の中で作って生活圏にそいつをメチャクチャ登場させるって、絶対みんな小さい頃に経験あるじゃないですか。俺なんか外で遊ぶの断って1人で桃鉄ばっかりやってたり、遊戯王カードを擬人化させて6時間くらい「暗黒騎士ガイアvsミノタウルス」「ブラック・マジシャンvsデーモンの召喚」みたいな一騎打ちを少年ジャンプのバトル漫画みたいに脳内で連載してたりしてた子どもだったんで、「そいつらも俺の頭の中で『俺が大人になるため』って消えていったのかな…」とか思っちゃうんですよね。(「俺は北宇治高校吹奏楽トロンボーン担当の2年生」という妄想は今でもします。)  
 
 
「喜び」っていうのは見方を変えれば…「悲しみ」っていうのは見方を変えれば…「思い出」っていうのは見方を変えれば…っていう『記憶する事』への真摯なメッセージに、未鑑賞の方は心を打たれること間違いなしです。大切な人がいないって方は、脳内の遠坂麗奈さんを映画館に連れて行って下さい。本編が始まる前の5分は知らない子どもの顔がただ映り続けるっていう「!?!?!?」の映像が続くんで(マジです)脳内の田中あすかさんの叱咤激励でトロンボーンの練習に励んだりして時間を潰して下さい。  
 
 
 
 
 
 

6位 マッドマックス 怒りのデス・ロード

 

いや、もうよくないですか?もう知ってる、知ってるよね?コレメチャクチャ面白いの。もういいじゃん、見てよ早く。俺っていうフィルターを通してわざわざドロヘドロをおかずにしてコレ見なくでもいいでしょ?よくない?「面白い映画を紹介します!マッドマックス 怒りのデスロードです!」って「好きなカレーの具は豚肉です!」みたいな物でしょ?何だお前は。何なんだオイ。


もう全部バカで最高ですよ。ビジュアルも世界観もガジェットも最高ですよ。もうそれで全部。ニュクス、マックスとウォーボーイズがエンジンにガソリン吹きかけて車を加速させ合いシーンが好き。ニュクスが「木ってこの出っ張ったヤツか!?」ってマックスに聞くシーンが好き。フュリオサが故郷を思って崩れ落ちる場面で砂漠に風が吹くシーンが好き。

 


映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』予告2【HD】2015年6月20日公開

 

 

 

5位 百日紅 ~Miss HOKUSAI~

 

「バードマン」もそうだったんですけど、「表現する」っていうテーマの映画が好きなのかもしれない (もしくは俺が全ての気に入った映画を「表現する」っていうテーマに結びつけてる)。
変わった映画だと思うんです。妖怪の類が出てくる作品なんですけど、別に退治しようとかそれに関わる人たちのあれこれっていう話でも無い。普通人間では無い物を出すんなら、それを中心にした話に普通なるじゃないですか。でもならない。「それはそこにいる」というだけで、物語に強く介入して来ない。


【表現する】って【体験する】っていうのを1回通さないと、なかなか上手くいかないじゃないですか。人を知るには人と触れ合わないといけないし、映画を撮るなら映画を見ておかなきゃならないし、音楽作るなら音楽聞いておかなきゃならないし、挿入する夢見るなら挿入しておかないといけないし。(本編でも主人公が処女だから春画が書けないっていうんで娼館っぽい所行って処女捨ててるんですけど、女装した男娼に相手してもらうのは江戸のサイコ感が出てて良かったです。)
「表現」の面白さ、それになんとか付いて行こうとする人間たちの面白さっていうのが、まずこの映画の一つのテーマで肝だと思います。


ただ、この映画はもう一歩踏み込んで「死」そのものを人は表現できるのか?」っていうテーマもあると思うんです。中盤に地獄の絵を寝室に置いてからロクでもない事が起きる男の話があるんですけど、ここが【「死」というのは生きた人間が扱える代物ではない】みたいな事なのかな、と思いました。
龍も、地獄も、妖怪も描ける。表現できる。でも「描けない」ではなくて「踏み込んではいけない」っていうのが、人が表現する【死】という事なのかな、と。
ラスト、主人公が現実の世界で一体どういう風に死を迎えたのか?というのがほんの少し本編で明かされるんですけど、その一言の直後に、江戸の街並みと現代の街並みがクロスして見せる場面とか、ちょっとブツブツが出来ました。小6で女子に泣かされたの思い出して。ウソです。感動して。必見です。


あと音響も凄く良いです。主人公の妹が盲目なんですけど、その子が橋の上に立ちながら、通り過ぎて行く人々が発する物音に耳を傾けるシーンがあるんです。
そこの【異質なんだけど、どこか聞き馴染みある音たち】っていう音の説得力で持って、この子はまだ人をちゃんと見ていて、決して世を捨てている訳ではないっていうのがちゃんと観客に分かる様になってる。僕はアニメ映画の歴史に残る作品だと思います。オトナ帝国の逆襲もメチャメチャ好きですけど、原恵一作品でベスト。
 

 


映画『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』新予告編

 

 

 

 

4位 きみはいい子

きみはいい子 Blu-ray

きみはいい子 Blu-ray

 

 

 


コレ、東京に遊びに行った時に新宿テアトルで鑑賞したんですけど、たまたま監督のティーチングの回だったんですよ。公開から大体1ヶ月くらい経ってるタイミングだったんですけど、客席7割くらい埋まってて、都会スゲェってなりましたね。あんまりビル見上げながら歩いてばかりいると「田舎者!」ってバレて路地裏で世田谷のチンピラに肛門を半田ごてで塞がれちゃうので、あんまり顔には出さないようにしてましたけど。


この映画、マジで腹立つことばかり起こるんですよ。子ども虐待されるし、『あった体で』とかじゃなくて本当に泣いてる子どもを平手打ちしてる様に見えるし、「どうもこんにちは、趣味はマジックインキの匂いを嗅ぐ事です、趣味にとにかく集中したいので仕事はしていません 孕んだ?堕ろせ」みたいなヤツ超出てくるし。

しかも、主人公は小学校の教師なんですけど、どこまで台本があるのか分からない自然な学級崩壊がそこにあって (自然な学級崩壊?)学級崩壊当事者の意見が入ってるとしか思えないんです、マジで許せねえんだよガキが。


でもこの映画の後味ってそんなに悪くなくて、むしろメチャクチャ良く感じたんです。それは登場人物たちが抱えるそれぞれの問題って実はみんなが共有できる事で、『辛さって分かち合えるし感じ合える』っていうのを、凄い高いレベルでエンターテイメントとして昇華してるからだと思います。どこかで誰かが見れくれているかもしれないって思うだけで、スゲー楽になったりする訳じゃないですか。褒めてくれるかもしれないとか、この人なら分かってくれるだろう、とか。


上映終了後の監督のティーチングでも「他者の事情を想像すること」「目に見える事だけに捉われないこと」について監督が触れていて、それが凄く心に残ってます。終盤の終盤、主人公がある場所に向かって走り出すっていうシーンがあるんですけど、そこにある演出が最高なんで、見てください。あと、揚げパン。「揚げパン美味いよな」「美味い」って会話と、その時の子役の顔で号泣します。揚げパン美味いしな。

 


映画『きみはいい子』予告編

 

 

 

3位 フォックスキャッチャー

 

「正しさ」を求めたいけど「正しさ」の方は俺を求めていなかった時、「正しくない俺」はどうするのか。そういう映画の様な気がします。

 

 

インターネットにズブズブになってるオタクっていうのは(っていうか俺ですけど)、「”正しい大人”にはもうなれないんだろうな」って、何となく気付いてるじゃないですか。新卒で20代の内に結婚して、狭いながらもマンション買ってローン組んで、子ども生まれて年賀状書いて、町内会の炊き出しで豚汁作って、みたいな。でもそれでも、どこか夢見てる所はまだあって、既卒で就職しても30代後半で5コ下の女と結婚して実家暮らしくらいならまだ…とか、けんちん汁の炊き出しならまだ…とか。そうやって別の形でいつまでも理想を求めたり、押し付けたりしてくのが人間なんだと思います(っていうかそれ俺ですけど)。

 

 

ただ、この映画の好きな所って【圧倒的な正しさって、ムカつくよな!?】っていう身も蓋もない事を真正面に、それでいて上品に撮っている所なんです。「家族のため」とか「弟のお前ならきっと分かってくれるよな?」とか、そういうお前が人生で得た後ろ盾があるなら、その一言で全部済むのかよ!?っていうさ。この怒りが理不尽って分かってるけど、お前がそれを理不尽って理解していない事自体が理不尽だろ!?でも分からないよな、だってお前は正しいから!っていうさ。オタクだし俺の立場はクソ弱いからいろんな事を飲み込んで妥協してやるよ、だって俺は正しくないから、っていう社会的地位の無い貴方に是非オススメしたい映画です(っていうか俺だ)。

 

 

正しさと理想と理不尽と、人と人の間で生じる下らない軋轢をエンターテイメントとして楽しんで見る事ができる、それを高いレベルで作品として完結させている、間違いなく傑作です。あと、主演3人がメチャクチャいいです。俺たちの”根暗筋肉”チャニング・テイタム、”無意識の権化”スティーブ・カレル、”何か今年俺が見る映画にスゲー出てきた”マーク・ラファロ*1。やっぱチャニング・テイタムはいいですね。この映画くらいでしかテイタムは根暗で猫背で筋肉っていう役柄は演じてないんですけど、この映画が好き過ぎてどんな映画でも「お前、お兄さんあんな目に遭って大丈夫か!」って心配になってます。木星でもちゃんと飯食ってるかテイタム。

 


フォックスキャッチャー 予告篇

 

 

 

2位 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

 

馬力がとんでもない映画です。

「表現すること」を描いた映画だと思うんですけど、同時に「表現した人」と「それを受け取った人」との間に生じるズレがテーマなのかな、と。

この映画って、1個も上手い様に事が運ばないじゃないですか。舞台主演して脚本書いてさあスタートだっつっても、新しく雇った俳優は全然言うこと聞いてくれないし、娘はその俳優といい感じになっちゃうし、劇の評判クソ悪いし。まあ物事が全部上手く運ぶんなら映画になんかする必要ないんですけどね。ハハハ。うるせえバカ。

「理解してくれない、分かってくれない」って上映時間119分のうち100分くらいは主人公が愚痴ってるんですけど、でも実は彼も自分のことを全然理解していないんですよね。自身が脚本した劇で「愛とは何か」を語るシーンがあるのに、それが自分の言葉であるはずなのに、娘にはその愛を実践できない。「表現する側と受け取る側のズレがテーマの映画」と書きましたけど、それは「考える自分」と「表現する自分」っていう、自分の中にある【理想と現実のギャップ】っていう事でもある様な気がします。

 

 

終盤、演劇中での自殺未遂っていう表現が、何故か評論家にはメチャクチャ受けるっていうズレに尚の事頭を抱える下りを経て、娘との会話で初めて主人公は劇中では初めてズレなく人と向き合える事が出来るんですけど、圧巻なのはラストシーンでした。

主人公が飛び降り自殺した…?と思いきや、空を飛んでいるのか…?というのを娘の目線と表情だけを見せて語るんですけど、ここでこの映画は観客たちに投げかけて来ています。「この『映画』と観客である『お前』との間にもズレがあるんだぞ」と。「表現する側と受け取る側、この関係性はお前が生きている”そこ”をも指しているんだぞ」と。

見ていると思っていたら、実は見られていたっていう構図を最後に持ってくる映画がメチャクチャ好きです。8位に上げた海街diaryの是枝監督の「そして父になる」にもそういうシーンがありました。大好きな映画です。

 

 


映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』日本版予告編

 

 

 

1位 クリード チャンプを継ぐ男

 

いや、もうコレほぼロッキーなんですよ。公式だとロッキーのスピンオフ作品っていう括りなんですけど、もうほぼほぼロッキーです。何なら題名が「クリード ロッキーを継ぐ男」でもいいし、「ロッキー チャンプを継ぐロッキー」でもいいし、「ロッキー ロッキー」でもいいです。それくらいロッキーを見た方なら「ロッキーじゃん!!」ってなる映画です。でもね、見終わってね、席立ってね、映画館出た時の感想にはやっぱりそういうのは関係ないんですよね。だって俺はロッキーが大好きだから!、っていうかこの世の生きとし生ける物すべてはロッキーが大好きだから!!!

 

 

本当にちょっと前までデ・ニーロとボクシングやってたスタローンですけど、今回の主役はマイケル・B・ジョーダン。この人がロッキーに弟子入りしてスターダムを駆け上がってくっていうのが本策のあらすじなんですけど、この人が全然強そうに見えない。

 

 

序盤にこの人は結構いい企業の会社員で、ボクシングへの情熱がどうしても冷めなくて会社を辞めるっていう一幕があるんですが、グローブ嵌めてリングに立つよりかは、サラリーマンスタイルの方が似合ってる様に見えるんですよ。

作中でもロッキーにもフィラデルフィアで出会った恋人にも言われてます。「学校を出た人間の喋り方だな」「ボクサーにしては細く見えるけど」って。現役だった頃のロッキーや父親のアポロに劣って見えるのは勿論なんですけど、街のちょっとしたボクサーよりも風格が無くて、「戦う男」っていう獰猛さが全く感じられないんです。

でも上手いのが、それを含めた「自身の出生に対するコンプレックスとも戦う」という場面展開が、しっかりストーリーとリンクしていく点なんです。自分は父親ほど、強い人間ではないのかもしれない。自分は一生父親の影と戦う運命にあるのかもしれない。自分は望まれて生まれてきた人間では無いのかもしれない。それを証明するには、それを否定し、肯定するには、自分はどうしたらいいのか。

 

 

やはり、それは彼らにとって証明の場はリングの上でしか無いんですよね。自身の価値と証明とを賭けた戦いに挑むクリードと、その背中を見守りながら、セコンドとして共にリングへと歩んでいくロッキー。控え室から、彼らチームがリングへと向かうシーンは本当に圧巻です。俺たちには、戦うことしか出来ないのだと。後退なんてそんな選択肢は、そもそも存在しないのだと。彼らの勝ち負け以上の物を背負ったその後姿、涙するなんて物じゃないですね。なんか、目が「水脈を掘り当てました!」みたいな。「いや、弊社としてはボーリング調査の最中だったんですが、まさかこんな…噴き出るとは…」みたいな。そんな感じですね。映画館で泣いた事はこれまで1度も無かったんですけど、今作でメチャメチャ泣いてしまいました。その自身に対する衝撃も含めて、2015年のベスト1に選ぶことは容易でした。

 

 


『クリード チャンプを継ぐ男』本予告

 

 

 

 

という事で、2015年のランキングは

1位 クリード チャンプを継ぐ男

2位 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

3位 フォックスキャッチャー

4位 きみはいい子

5位 百日紅 ~Miss HOKUSAI~

6位 マッドマックス 怒りのデス・ロード

7位 インサイド・ヘッド

8位 海街diary

9位 セッション

10位 薄氷の殺人

でした。次点は「ミッションインポッシブル ローグ・ネイション」「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」という感じです。

*2

 

キミは今年、どんな映画を見たかな!!??来年こそは新作映画50本、旧作映画100本のノルマを達成したいです。ありがとうございました。映画最高。

 

 

 

*1:アベンジャーズ」「ゾディアック」「はじまりのうた」

*2:因みに言うと、ワースト3は「96時間レクイエム」「エイプリルフールズ」「ピクセル」です