「アジアのMicrosoft」と呼ばれている一流大企業ネスレ様から発売、老若男女に愛され北は北海道南は沖縄まで全国津々浦々その名を轟かせている粉末飲料、それが「ミロ」だ

ミロが好きだった。
…「ミロ」と一言だけでは皆さんには伝わりづらいかもしれないので補足。


日本を牛耳り「アジアのMicrosoft」と呼ばれている一流大企業ネスレ様から発売、老若男女に愛され北は北海道南は沖縄まで全国津々浦々その名を轟かせている粉末飲料、それが「ミロ」だ。


この粉末をミルクで溶かせば、アッという間にミロの出来あがり。
優しいココア味に舌鼓を打つのは勿論のこと、タンパク質、鉄分、ミネラル、ビタミンと栄養面にも優れ「美味しくてしかも栄養満点」と『即戦力になれる新卒採用』『フェリス女学院大在学中Hカップ処女』『女性と喋れたし勧められた宗教にも入信できたし幸せになれるらしいし最高』ばりの一石二鳥スキル。
私の様な母から月3000円程度の食費で18歳まで育てられた人間が、この奇跡のパウダーに夢中になるのは当然の成り行きであった。


(しかしこのブログで好きな食べ物を色々挙げてきたが「トンカツが好き」「寿司が好き」「ハンバーグが好き」と、まるで小学生の好物ばかりだ。これも両親の『子どもなんて物は醤油やらソースやら塩っぱい物がかかった物でも食わせておけば満足するのだろう』の精神の下で食卓が彩られたせいだろう。)


…で、ミロが好きだった。
ただ私の場合、カフェ風居酒屋で1200円のバーニャカウダをボリボリ食うブスの精神と同じくして「素材の味を楽しみたい」という強い高級志向と「ミルクを暖める暇すら勿体無い」という堪え性の無い貧乏性の合わせ技一本で「粉末状のミロをスプーンですくってそのまま食う」が好きだった。


小学生のころの好きな食べ物といえば「ミロ(粉末)」「マーガリン」「こんにゃく」だった。
マーガリンはミロと同じくして容器からスプーンですくってペロペロやって、よく家族に隠れて録画したトゥナイト2を見ながらおやつにしていた。
こんにゃくは父が「こんにゃく好きなんか?こんにゃく好きなんか?」と私がこんにゃくを食ってる合間ずっとニヤニヤしながら聞いてくるのが面白くて好きだった。死んでほしい。


ミロとマーガリンが冷蔵庫に補充された日なんか最高だ。マーガリンの容器から銀のビニールをペリペリ剥がし蓋も外したら、粉末ミロをこれでもかとブチまけ、そのままスプーンでパクリといく。最高に美味かった。
当然その数分後にはミロと唾液まみれになった(舐めきれなかったミロがスプーン上で固まり、唾液を少しずつ口内で吸っていった結果だ)新品のマーガリンが母に見つかり「全部一人で食え!」とメチャクチャに怒られる訳だけど、それでも美味かった。
友達の熊倉くんや山口くんが家に遊びに来た時も、『最高級のおもてなし』
としてミロとマーガリンとスプーンを机にバンと置いた時に「?」という顔をされた時はショックだったが(それはそうだ)それでも美味かった。クリントン大統領が家に来たとしても私は同じメニューで迎えたと思う。外交がメチャクチャになると思うけど。


実家のミロ代マーガリン代をとんでもない額にさせた私の粉ミロ好きマーガリン好きであったが、実家が喫茶店を経営していた中村くんが実家に遊びに来た時に、遂に終わりを迎える事となった。


いつもの様に自信満々にミロとマーガリンを勧める私。苦笑いしながら遠慮する中村くん。憮然とした私であったが、それから2週間後。「爆!ボンバーマンがウソみたいに難しいから助けてほしい」と泣きつかれて遊びに行った中村くんの家で、親父さんがおやつで出してくれた正規の手順で作ったミロとバタークッキーの美味しさと衝撃で、完全に打ち止めとなった。
考えてみれば、「ミルクで溶かした方が絶対美味しいけど用意するのが面倒くさい」「パンに塗った方が絶対美味しいけど用意するのが面倒くさい」が根底にあって、そしていつの間にやらそのまま素で食う様になっていただけだったから、ちゃんと作った方を美味しいと感じるのは当たり前だった。



…今思うと、私の家でのおやつの惨状を中村くんから伝え聞いた中村くんのお父さんが不憫に思って、それとなく私を遊びに誘う様に中村くんに伝えたのかもしれない。
あのまま私のおやつが固定されていれば、クラスで毎年春になると作っていた自己紹介文の「好きなたべもの」コーナーでクラスの皆に元気な声で貧乏舌大発表となっていたはずだ。中村くんのお父さんには感謝してもしきれない。


で、あれから15年ほど経って今。
ミロなんてもう大人になってから1回も作った記憶がないし、パンにマーガリンを塗る事すら無くなった。
中村くんのお父さんの喫茶店も、私が高校に入学する辺りで中村くんのお父さんが病に倒れ、元々お父さん一人で経営してた所だったから、それを機にお店も畳んでしまった。


一袋20円の成分表もろくに表示していない駄菓子と同じくして、子どもの頃でしか身体が受け付けなかった食い物の一つに、粉ミロマーガリンは含まれていたのだと書いてて思う。
15年前の私よ、マーガリン一欠片を口に入れただけで胃がもたれる私の様な臓器になる前に、思う存分家族の留守を見計らって、トゥナイト2とワンダフルを見ながら粉ミロマーガリンを食っててくれ。トゥナイト2もワンダフルもあと2,3年で終わるし。