昔通った本屋がだんだん少なくなっていくのを見る度に思い出すのは

よく本屋に行く。


田舎暮らしの人間にとっての娯楽といえば「本屋」か「ゲオ」か「子どもの頃によく連れてってもらったハローマックやらカメレオンクラブやらなんやらの店舗がドンドン宗教団体の事務所か介護施設に改装され変わっていく有様を見て愕然とする」くらいしか無いから、その例に漏れず私もしょっちゅう本屋に行く。


給料日1週間前のお金が無い時期でも、特に欲しい物が無い時でも、バイト先のすぐ近くに大型書店がある事も手伝って、何となく足を運んでしまう。


店に行って始めて気になっていた本が文庫化されていたのを見つけたり、店員さんオススメの平積みされてる漫画に目を付けておいて次来た時に1巻だけまとめ買いしたり、ラノベコーナーをザッと見て目をチカチカさせたり、BLコーナーで髭がもう薄っすら生えてきてる女性(たぶん)が立ち読みしてる姿を観察して「よし」と納得したりと、お金が無くてもそこそこ満足できる要素が本屋にはあったりするから、楽しい。
結果的に車のガソリンを柄杓でブチ撒けてるだけだけど、いい。


バイト先までの道すがらには、恐らく客層のニーズに合わせてなんだろうけど、漫画にのみ特化された本屋があって、こちらにもよく行くのだが、この2つの本屋の中間地点くらいにもう一軒、かなり小さい本屋がある。私はこのお店が一番好きだ。
品揃えも大型書店と比べればかなり見劣りするし、Tポイントも貯まらないし、レジにいるのは若干死にかけのおばあちゃん店員だとしても、お手製のポップを作ったり、「ご自宅にお届け!本の配送はじめました!」なんていう張り紙をデカデカと店頭に掲げたりと、あの手この手で工夫してお客さんを呼び込もうとしているのを見ると、「漫画だけはこっちで買っておこうかな」と、微力ながら応援したくなってくる。


(とはいっても、Tポイントも貯めたいし、「死にかけのおばあちゃんから投げられたレシートを拾いたくない」となった日はしっかり大型書店も利用しているし、実際そちらを利用する事の方が多いんだけど)


子どもの頃はどうだったかと思い返してみると、毎月ほぼ欠かさず購入していた『コロコロコミック』や、大好きだったポケットモンスタースペシャルが連載されていた『小学4年生』を買う為に、スペースとしては8畳くらいしか無かった地元の書店をよく利用していた。
その書店も店を営んでいたおじいさんおばあさんが亡くなって、閉店してから十数年は経ったけど、同じように各地に点々と存在していたはずの零細経営でなんとかやっていた小さな書店は、今どうなっているのだろう。


当時はいつも私がコロコロを買ってた書店で、同じようにジャンプを毎週購読していた母曰く「チェーン店は融通が効かなくてダメ」との事で、実際母がツケで本を買っていた所を何回も見たし、私もその恩恵にあずかった事もあった。お店が無くなる数年前くらいからは「お釣りの小銭が多くなりそうなら、ついでと言ってはなんですが…」とレジ横に10円20円の駄菓子を一緒に置く様にもなっていて、ある程度の差別化は出来ていた様な気がする。
しかし、何を買うにしても「ポイントカードはお持ちですか?」と尋ねられるこの時代、例えばTポイントが使えるお店なら、駄菓子を買わずともポイントを使って端数分を切り捨てる事が出来る。そのポイント自体だって、事ある毎に実施されるポイント◯倍期間とかで、1ヶ月も通えば文庫本1冊くらいならタダで買えるくらいのポイントは容易に貯められたりする。
「ある程度店に来てくれて、顔見知りになれば優先して使用できるサービス」の『ツケ』よりも、コミュニケーションを築く必要もなく利用できるこちらのポイント制度の方が、個人的には融通が効いてる風に思う。おじいさん店員の機嫌が悪いと相当睨まれるから、顔色を伺いながらツケを申し出る必要もないし。


「商店街にある様な書店には本に詳しいおじさん店長がいて、オススメの本を本棚から探して出してくれて、世間話ついでに新刊の発売時期も教えてくれて…」なんていうドラマや漫画で登場してきそうな『ある書店の風景』めいた物も、大型店舗であれば設置されてるであろう検索機能が付いた機器で、本の位置、詳細、在庫数までもが一発表示だ。
「他人を介さなくてもいい」というのは実際気楽であるし、私が何かを購入する際には、店を選択する上でもそれが十分な理由になっている。


昔通った本屋がだんだん少なくなっていくのを見る度に思い出すのは、中学生の頃だ。当時は母と妹と私とでハリーポッターシリーズに相当ハマっていて、その頃は炎のゴブレットだか騎士団だかの翻訳版がようやく発売される時期だったから、日本中が結構な騒ぎになっていた。
勿論私たち家族も購入する気マンマンで書店に向かったのだが、どこに行っても「予約が無いと売れない」「次の出荷も分からない」の一点張り。
で、各地の本屋に電話をかけまくって、ようやく1店舗だけ「在庫あり」とのお返事。「本当ですか!あと、あと15分くらいで行けますので、取り置きだけでも何とか!」とテンパる母に、電話口の店員さんは静かに「いえ、大丈夫ですよ。あと20冊くらい余ってますし…」。
近所のお得意さんの心意気で何とかやっていけている田舎の書店にとって、上下巻合わせて4000円の新刊が20冊余っているというのはどういう状況を指すのか、細かい所は私には分からないが、とにかく我々としては「やったぜ田舎!」と家族全員でハイタッチだ。してないけど。


15分後、私たち家族は日本中がハリーポッターブームで大フィーバーしてる中、予約なしで買うことが出来た訳だけど、今あの書店はどうなっているだろうか。
それから購入したハリーポッターを家族全員が読み終わった頃、母が再びその書店に足を運んだ様なのだが、「日曜日に開いてない店は潰れてしまえ!」と言いながら夕飯を食べていた事だけは覚えている。まあ、誰がそういう小さい書店を追い込んでいるのかといえば、Tポイントを貯めに貯めている私なのだけど。