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暗証番号3210

大層なタイトルにしてあるが、これからするのは当然特別な話などではない。


暗証番号という物騒なタイトルから、これからこのライブドアさんという大企業様が運営されているこのblogで「時効だから構わんでしょ?」と言わんばかりに小学校の倉庫の南京錠をこじ開けて夜の9時におもむろに屋外バスケットボールを友達とぜいぜい言いながら遊び始めた話も当然する訳はなく、だからといって「さあ軽犯罪自慢だ」と言わんばかりに赤外線センサーをくぐりにくぐって手に入れたお宝自慢のトム・クルーズ的なお話をする訳でも無い。これは、もっともっと小規模で、仕様も無い11歳の子供のお話。


11歳ともなると、色んなことに興味がでてくる年頃だし、思春期なんかも早い子供ならば始まってくる年頃だ。当然好きな異性も出来始めるだろうし、同年代の話題も異性の話で盛り上がってくるのがそろそろ普通になってくるはずだった。しかし、僕の周辺ではそういった話をしたことがあまり無かった。


それは、いかんせん僕らの仲間内の人間達がマジメ人間ばかりの内気な奴しかいなかったことが挙げられる。3人もいた僕の友達で、松田君は勉強の話とテイルズオブエターニアの話しか僕に聞いてこないし、木戸くんはその時、「僕、副級長に選ばれたから」と訳も分からない理由で運動も勉強もできる別派閥のクラスメートに擦り寄っていたし、もう一人の山内くんは習字の授業で急に僕に「最近、なんだかゲームの世界と現実の区別がつかないんだ」と打ち明けてくれた日からあまりに喋るのが辛そうだったので僕の方が遠慮をしていた。


まあ、そんなこんなで、僕の周りには女の子の話をするような友達がほとんどいなかったのだ。その時の僕はというとしっかり親父の本棚からBUBUKAというこれまた大企業のトップエリート様達がお作りになられている俗に言うエロ本を入手はしていたので、そういった仲間内でのエロの情報交換というものが出来ず、またそういった所で悶々とした物を発散できずにいたのだと思う。


そんな日々が続いて抜け殻のように日常に絶望していた僕だったのだが、ある日親父が加入しているCSで一人でカートゥーンネットワークというチャンネルで昔のアメリカのアニメをボーっと見ていた時の事。何とは無しにチャンネルを弄ってみるとあら不思議、何ということでしょう、テレビから大量のモザイクと女性と思われる喘ぎ声がこれでもかと聞こえるではありませんか。これには匠も驚きだったと思うが、僕はリモコンを弄っていたら偶然、エロチャンネルの番号を押してしまったようだった。この時ばかりは僕の中に革命を感じざるを得なかった。なんせ洋モノのプレイボーイチャンネルもお姉さま系のピンクチェリーチャンネルも見放題だ。僕は歓喜の雄たけびを心の中に留めたまま、母が帰ってくるまでの残り15分、感涙にむせながら男女の生殖行為を見ていたのだった。


その翌日、学校が終わるとすぐに僕は家へ向かった。勿論エロチャンネルを見るためだ。松田君の「テイルズオブエターニアのあの中ボスなんだけど」という声も無視し、家に到着し、無人の父の部屋に向かいテレビを点けるとそこには驚愕の文章。そうそこには「この番組には視聴年齢制限の為にパスワードが必要です」という文字と画面に写るのはモザイクではなく真っ青な映像と背景。


恐らく、父は偶々昨日そのロックをせずに仕事に向かい、僕が学校に行っている合間にそのことに気付き仕事に出かけたのだろう。・・・その日から僕と4桁の暗証番号との長い長い闘いが幕を開けることになったのだった。


その日から僕の生活は一変した。僕の授業が終わるのが大体4時15分、母がパートから帰ってくるのが4時35分頃。大急ぎで家に帰っても解読時間は毎日約15分。その15分のために日々を生きた。効率UPの為に調べ終わった番号のメモを取った。授業中もノートに父が好きそうな4桁の番号を思いつくまま書いてみた。帰る時の松田君の「最近テイルズオブエターニアやってる?」の声も無視した。フラフラと真っ直ぐ歩けなくなっていた山内君を押し飛ばして教室を毎日飛び出た。15分、エロチャンネルを見る為に番号解読を、という目的がある日々で僕はとても輝いていた。


そんな日々が続いたある日、奇跡が起きた。もう駄目だ、の独り言の元、片っ端から適当に番号を入れていたその時、遂に「暗証番号は解除されました」の文字。ーーやった、遂に俺はやったんだ、この長い呪縛から遂に解き放たれたんだーーそれから一週間、僕はエロチャンエルを堪能する日々が続いた。友情も、時間も、労力も、全てを投げ打った成果が、そこに現れたのだった。そして僕は毎日かかっていたロックを解除し、15分のエロチャンネル視聴に努めた。僕は生きているという実感が湧き、そして生きるという意味もまた感じていた。


しかし、その時僕は気付いておらず、そして忘れていたのだ。暗証番号が解読できたからと言って、見終わった後にまた暗証番号のロックをかけないと当然、父に解除がバレること。暗証番号は毎日、父は仕事に出る前に、必ずかけていっていた、ということ。そして暗証番号解読に力を注いだあまり、父の部屋からの「痕跡残し」という点においては全くの盲点だった事。後から気付けばソファに明らかに僕と見られるケツの跡がくっきり残っているし、何ならランドセルも置きっぱなしであったりして僕が何度も部屋の出入りしていることは明白だった。


そしてその1週間後の夕飯。父も勝手に息子に部屋に出入りされて頭にきていたのだろう。家族が揃って食卓を囲むその場でまずこう切り出した。






「おい、エスキ、3210、という数字に心当たり、ないか?」




それからの一週間、また僕は抜け殻のような日々を送り、テイルズオブエターニアにのめりこむ日々が続くのだが、それはまた別の話、的な。