ドガガガガ

小学生の時、何故かミシンを習わせられたのは全国民同じなはずだ。何故、あのミシンという器具が曲りなりにも小学校の必須授業科目として採用されたのか今でも不思議だ。実際、それ以来触ったことすらなく、ここまで生きてきたのは僕だけではないはずだ。


だいたい、ミシンというのは小学生が扱う器具としては危険すぎやしないだろうか。例えば午後のティータイム、ちょっとこじゃれたカフェなんかで同じクラスと女子を口説く場面なんかあった時には、「そうそう、それでね・・・」と女の子も僕の話にいい感じで乗ってきてくれている所で、ちょっと失礼といわんばかりにアッサムティーラテに手を伸ばそうとした時に、たまたま稼動中のミシンに手を入れてしまったとしたら、どうだろう。スッ、ドガガガガガガガ、グシャグシャグシャグシャ、パリーン、ピュー、ギャーーーーーー、イヤーーーーー、ウワーーーーーーーという展開は充分にありえるだろう。ミシンとは凶器として、午後の男女の麗らかなひと時を奪うには充分すぎるほどの力を持っている。


ミシンの「一歩間違えば大惨事」というありえる展開を秘めた器具そのものにも恐怖心はあったのだが、何より嫌だったのが、小6の時のリュックサック製作。あらかじめ、業者にお金を払い、リュックサック作成キッドなるもので、リュックを作るのだが、今思えば小学生に作れるようにとても簡単な作業でリュックサックが作れるようになっており、どんな不器用な者でも一応は形になって当然だったのだ。


そのリュックサック製作、何が嫌かというと、僕の手元に作成キッドが無かったのだ。「母親にリュックを作るから業者に送る代金をもらってくるように」というような事柄を、担任の先生から必ず今週中に親に言うように、と言われた週には親に伝えるのを忘れ「先週、お父さん、お母さんに伝え忘れた人も今週中は必ず伝えるように」と言われた次の週も忘れ、そんなこんなで遂に1ヶ月、言いだせず仕舞いだった頃には皆の手元にリュックサック作成キッドが届いていた。その頃になると先生にも親にも、もう誰にも怖くて言い出せなかった。本当にもう、終わりだと、小学校は卒業できないのだと本気で膝から崩れ落ちた。


結局、親に泣きつき、先生に頭を下げ、何とか小卒ニートのレッテルは回避することには成功した。これは全面的に僕のせいでこんなことになったのだが、「なんか皆に申し訳ないなあ」という思いがミシンを見る度に覆いだしてしまう。そんな後ろめたい気持ちがミシンという器具を見る度に僕は思い出してしまうのだ。ドガガガガ、ドガガガガという音があの頃のヒステリック気味の担任の先生を思い出させる。ああ、そういえば、そうやって出来たリュックサック、結局2年間は使ったけなあ。もう捨てられたのかなあ。次に実家に帰った時探してみよう。いつ帰るかは分からないけれど。


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